きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

春風よ君に届け15

「そう来たか……」

シャルルは執務机に片肘をつき、顎に手を充てるとパソコンを操作しながらそう呟いた。

「どうかしたの?」

「ミシェルのGPSがこの屋敷の中から反応している。自分で外したか、あるいは犯人によって外されたのか。どちらにしろミシェルは身につけていない」

「それじゃ……」

「ミシェルのGPSから追う線は消えた」

そんな……。
せっかく二人の居場所がわかると思ったのにあたし達は二人に繋がる唯一の手がかりを失ってしまった。
こういう時ってやっぱり警察に相談?でも誘拐って「警察に知らせるな」っていうのが犯人の常套句よね。もし警察に知らせたら二人の命は……ってテレビでよく見るあれ。それにシャルルは警察をあまり信用していないんだと思う。
前にクレマン殺害事件でまだ参考人の段階で強引に連行されそうになった過去がある。だから今回も警察って言葉は一つも出ていない。アルディ家で起きたことはアルディ家だけで解決させるっていうのがあるのかな。
それにしても犯人の目的って一体何なのだろう?
二人が連れ去られてからずいぶんと時間がたったけど犯人からは何の接触もない。
どうすればいいんだろうと思っているとシャルルが突然パソコンに向かって喋り始めた。

「オレだ。ーーそうか、わかった。すぐに向かう。ーーあぁ、車を用意してくれ」

あたしは一瞬、シャルルがおかしくなったのかと思ったけどよく見ればシャルルの耳に見慣れない物が入っていることに気づいた。
なんだ、あれで誰かと話しているのか。
ずいぶんと小さな電話ね。

「ミシェルの居場所がわかった」

電話は終わったらしく今度はちゃんとあたしに向けて話してくれているようだった。
良かった、シャルルがおかしくなったんじゃなくて。

「本当?!」

「あぁ、パリ市内だ。ここからそう遠くない。すぐに向かおう」

さすがはアルディ家の情報網だわ。どうやって居場所を突き止めたのかはわからないけどとにかく良かった。これできっと二人を助けることができる。
玄関先で待っていたダニエルと合流し、あたし達は車に乗り込んだ。
車はお屋敷の門をくぐり公道へと滑り出した。
あたしは後部座席にシャルルと並んで座り、運転手さんの横にダニエルが座った。あたしはそこで何か違和感を感じて後ろを振り返った。
そう、あたし達の車以外、誰一人としてついてきていなかったのよ。
敵地に向かうのに三人だけで大丈夫なのかと心配になった。なんせあたしは柔道も空手もそれこそ喧嘩だってしたことがないのよ。となれば闘えるのはシャルルとダニエルだけ。あたしはミラー越しに運転手さんを見た。どう見てもただのおじさんで腕っぷしが強そうには見えない。
シャルルはあたしの隣で両腕を組み、真っ直ぐに前を見据えている。

「ねぇ、誰もついて来てないけどまさかあたし達だけで乗り込むつもりなの?」

ダニエルもそれが気になっていたらしく助手席からそれとなくこちらの様子を伺っている。

「問題ない。犯人と交戦するわけではないからね」

シャルルはそういってパチリと音がしそうなウインクをしてみせた。
一体どういうこと?
あたしは意味がわからずにどこか自信に満ちたシャルルの横顔をただ見つめるばかりだった。



つづく