きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

愛は導かれてパッサカリア 5

ドゴール空港に着いたのは翌朝の8時すぎだった。タラップに立つと夏の香りがあたしを迎えてくれた。
一人では決して来ることができなかったパリ……。
その空をあたしは今、見上げてる。
お金がないという理由を言い訳にして、あたしは和矢と別れた後もシャルルに会いに行こうとはしなかった。
シャルルだっていつまでもあたしを好きでいてくれるとは限らないし、もう新しい恋人がいるかもしれない。
何よりあたしはあの時、シャルルの前で和矢を選んだ。その事実は決して消えることはない。今さらどんな顔をして会いに行っていいのかもわからなかった。
そんなことをぐずぐずと考えているうちに時間だけがどんどん過ぎていってしまった。

パリの美しい街並みに見惚れていると、車は大きく左へと曲がり、目の前に見覚えのある立派な門が見えてきた。
数年ぶりに目にした懐かしい景色に胸が高鳴る。吸い込まれるように門をくぐり抜けると車は速度を落とし、ゆっくりと本邸へと近づいていく。
建物の前の噴水で水浴びをしていた小鳥たちが一斉に飛び立つ。その様子を目で追っているうちに車は噴水をぐるりと回り、本邸から離れ始めた。
え?
玄関前を通りすぎちゃったけど、隣に座る大佐は身じろぎ一つせず、焦る様子もまったくない。
そっか!
あたしはここに車で来たことがないから知らないだけで、きっとこの先に車用の入り口でもあるのね。
すると車は本邸のすぐ裏手にある建物の前になぜか止まった。
本邸に比べると小さめの洋館といった感じで、二階部分まで伸びる数本の列柱がとても印象的な建物だった。

「降りろ」

「え?でも……」

あたしは不安になり思わず本邸を振り返った。ここへ来た時は必ず本邸に通されてたのにどういうことだろう。

「心配するな。ここは数ある別邸のうちの一つだ。市内にもいくつかあるが本家敷地内にある方が保護しやすいと判断しておまえをここへ連れてきた」

そういえば日本で言われたわ。『われわれの保護下で生活してもらう』って。あの時は突然のことだったからつい聞き流しちゃったけど、保護下ってことはあたしは危険ってこと?
あたしは大佐の後に続いて車を降りた。
目の前の小さな洋館を見上げる。眩しいほどの陽射しが白い外壁を輝かせ、青く丸みを帯びた尖塔部分がまるで教会のようだった。

「あたしは一体何に狙われてるの?」

大佐の背中に向かって訊ねた。
すると大佐は足を止め、あたしを振り返るとサックスブルーの瞳に影を落とした。

「フレミー公爵家。シャルルの婚約者の家だ」

「婚約者……?」

心臓がどくんとなった。

「おそらく結婚の際の条件を少しでも自分達に有利に運ぶため、シャルルの過去を調べ、おまえの存在を知り、利用しようとした。そこで我々は先手を打ち、おまえを保護したというわけだ」

 


つづく