アネットがあのイルカの置物をミシェルに渡すのはおそらく次にあたしに会いに来る時だわ。
アネットはあたしがミシェルとの勉強を終わる時間にはいつも部屋まで来てくれる。
だけどこの前みたいに少し遅くなったりすると図書室まできっと来るはずだわ。
その時、上手いこと言って二人きりにすればいい。
あたしは恋の使者にでもなったような気分で足取りも軽く部屋に戻った。
「また厨房にでも行ってたのかい?」
シャルルも仕事から戻ったばかりみたいで、ネクタイを緩めながらあたしを振り返った。
「もう、違うわよ。ちょっと散歩してたの」
ミシェルの所に行ってたなんて下手なことを言えばシャルルの機嫌が悪くなるのはわかっていたから適当なことを言ってごまかした。
それからあたし達は久しぶりに夕食を共にした。
シャルルは研究所の仕事と当主の仕事と毎日休みもなく忙しくしているため、月に三回ぐらいしか一緒に食べることができないの。
シャワーを済ませると二人でソファに座り、グラスを傾けながら昼間の話の続きをした。
「アネットがあいつのことを?」
うん、そうなのよ。
あたしは雲の上の人だと言っていたアネットの言葉を話した。
「アネットにしてみればミシェルはアルディ家の人間だし、自分なんかって思っているんだと思うのよ。だけど誰かと心を通わせることはミシェルにとっても良いことだと思うの。ミシェルってどこか闇を抱えているっていうか、人を寄せ付けない雰囲気があるでしょ?」
シャルルは黙り込み、それからあたしの腰に手を伸ばし、引き寄せた。
「だが彼女はミシェルがその相手だとはっきり言ったわけではないんだろう?」
「そうだけど、でもきっとそうよ」
「根拠は?」
「うーん、女にはわかるのよ」
「女の勘か」
「そう、女のね」
「ではその君の言う女ってやつをオレにも確かめさせてもらおうかな」
そう言うとシャルルはあたしの顎に手を伸ばし上向かせた。青灰色の瞳が揺らめく。あたしはそれに吸い寄せられるように目をつぶった。しっとりとした唇が重ねられ、次第に深く激しくなっていく。あたしはすっかりとろけそうになりシャルルにもたれかかると、
「寝室へ行こうか」
シャルルはあたしをさっと抱き上げ、寝室へと向かった。
つづく