みなさん、こんにちは!
今回は限定記事にはしていませんが、そういった事を仄めかす表現が少しあります。
ピロートーク(//∇//)なので、シャルルのそういう姿を一切見たくないという方は退室される事をお勧めします。
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「マリナ、なぜ空港から直接ここへ来なかったんだ?あの辺りは夜にもなれば治安も悪い。盗難だけで済んだからいいようなものの、何かあったらどうするつもりだったんだ?外国人観光客が事件に巻き込まれケースも少なくないんだぞ」
シャルルはベットを軋ませながら体を横に向け、自分の肘で枕を作ると、少し怒ったようなそれでいて心配そうな顔であたしを見下ろす。
「あたしもそのつもりだったのよ。空港からタクシーに乗るとこまではよかったんだけどね。アルディ家までって言ったのに、なぜか降ろされたのはあそこだったのよ。それで歩き回ってたらあんたの家が見えて来て、ホッとしたらお腹がすいてきて、ってわけ」
「それであのカフェにいたのか。シャルルの家が見える。こんなに……」
シャルルはあたしをチラッと見ながらあのカフェのノートに書いた文字を口にした。
え?
やだ、あれを見られた?!
でも書いてる途中でバックを盗まれたことに気づいたから、最後まで書いてはいない。
よかった……全部書かなくて。
だって恥ずかしいもん。
「こんなに近くまで来たのに、心はとても遠い……とか?」
「な、なんでわかるのよ?!」
照れるあたしに、シャルルはサッと体を起こし、覆いかぶさってきた。
「君の性格とその時の状況を考えれば想像はつく。オレの事で君が思い悩んでいたと思うだけで興奮するよ」
「ば、ばか何言ってんのよ」
息がかかりそうなほどの距離でまっすぐに見つめられ、あたしの心臓はドキドキが止まらない。
それにあたしのお腹に何かが当たってる……。
これはっ!?
思わずシャルルを見上げると、艶やかな瞳があたしを見下ろしていた。
「マリナ……オレは、」
待って、さっき終わったばかりであたし、まだ無理っ……。
何か、何でもいいから言わなきゃ。
あっ、そうだ!
「ね、シャルル?そういえば、ミシェルはどうやって外に出たのかってまだ教えてもらってないんだけど」
シャルルの眉がピクっと動いた。
うわっ、途端に目つきが悪くなった。
「ベットの上で他の男の話か。ずいぶんと余裕だね。オレに嫉妬させて、君はどうにかなりたいのかい?」
そういうとシャルルは腰をグッと押しつけてきた。
明らかなその硬さにあたしは焦った。
「待って、だって気になるんだもん。あんたが言うんだから中庭にいたのはミシェルなんだろうけど、」
「けど?」
シャルルが怪訝そうな顔をする。
「でもどうやって中庭に行ったのかわからないままだと納得できないっていうか、本当にミシェルなのかなって気になるし、それにミシェルはずっとあんな風に閉じ込められたままなのかなとか……」
するとシャルルはため息を吐きながら、ドサっとあたしの隣に寝転がった。
「くそっ、ミシェルのやつ」
あれ?
シャルルがミシェルを支配してるはずなのに、何だかシャルルの方が悔しそう。
「中庭にいたのは確実にミシェルだ。あいつは美紗がchambre Mを使い始めた時、ここまでのすべてを計画したんだろう」
「どういうこと?」
「ミシェルが待遇改善の要求をしてきたのは覚えているか?親族会議への参加権と戸籍の復活こそがあいつの目的だ。当主の権利はないとしても、アルディ家直系として生きていくのと、今の生活とでは天と地ほどの差だろうしな」
「それに自由も欲しいって……。あんたは考えておくって言ってたけど、どうするつもりなの?」
するとシャルルは枕を背に当てて、もたれかかるように体を起こし、あたしを斜めに見下ろした。
その瞳には諦めの色が滲んでいた。
「もしミシェルを孤島送りにでもしたら、君が黙ってはいないんだろう?」
たしかに止めるわね。
だってもう当主になれないって決まってるならシャルルの脅威にはならないだろうし。
そう思ってあたしは頷いた。
「それがあいつの狙いだ。君をまんまと味方につけた」
え……?
「まずミシェルはバルコニーから美紗の部屋に飛び移り、オレのふりをして中庭へと彼女を連れ出した。お忍びだとでも言ったのだろう。オレを落とそうとしていた美紗にしてみれば、まさに好都合だ。誘いに乗らないはずがないとミシェルは踏んでいたんだろう。あとは中庭で君の部屋のカーテンが開くのを待ち、二人の姿を見せつければいい」
「あたしがカーテンを開けるなんてわかんないじゃない」
「オレがあの青を基調とした部屋を君に選んだ理由もミシェルは読んでいたはずだ。オレの心変わりにやりきれない思いの君は、必ず窓辺に立つだろうとね。もしダメなら窓に小石を一つ投げれば済む。帰りは来た時と同じように美紗の部屋から入り、自室へ戻る。そしてミシェルは美紗に君が邪魔な存在であることを刷り込むことも忘れていない。そして美紗の前で内線電話を使って見せたんだろう。通話記録が君の部屋以外に一件だけあった。あとは美紗の出方を見ながらタイミング良く、君を助ければ完璧だ」
自分は羽をもがれた蝶だとミシェルは言っていた。そしてあたしにそんな自分の羽になれと言ったのはこういうことだったんだと知った。
「じゃ全部ミシェルの思い通りってこと?」
「そういうことだ。最終目的は体内に埋め込んだGPSを取り除くことだろうけどね」
「あんた、ミシェルにGPSなんて付けたの?」
「1センチにも満たない超小型設計だ。拷問よりマシだろ?」
あたしはコクコクと頷いた。
たしかにそうね。
あれだけのことをされても、シャルルはミシェルに仕返しはしなかった。
GPSを付けただけで、孤島送りも保留にして、そのままお屋敷に住まわせていたんだもの。
きっと生まれてすぐにキューバへ送られ、ずっと影の存在として育てられてきたミシェルへの同情もあったに違いないわ。
ミシェルもきっとそれはもうわかってるはずよ。
「GPSがあるなら万一のことがあっても居場所もわかるし、鍵付きの部屋じゃなくても、もういいんじゃないの?」
「ミシェルはオレの弱点をよくわかっている。オレと交渉するよりマリナを味方につけた方がよっぽど話が早い」
「シャルル、それじゃ?!」
「あぁ、待遇改善を認め、鍵のない部屋へ移動させよう。もともとミシェルの部屋はアルディ家専用医療チームの仮眠室だったしね。何人かで使わせていたからベットも何台も置いてあったのをあいつのために一つだけにしてやったんだ。医療チーム自体は数年前に別邸に移設したんだけどね」
「そしたらミシェルの部屋はchambre Mにするの?」
「あの部屋をミシェルに使わせるわけがないだろう」
「なんで?」
シャルルは身を翻すようにあたしの上に被さってきた。
「chambreってフランス語で寝室って意味なんだ。それにマリナの頭文字を付けて、あの部屋を《chambre M》と呼んでいた。君が初めてオレの家に来て泊まった部屋だ。今日まで誰にも使わせたことはない」
あたしは目が点。
天才とバカは紙一重ってよく聞くけど、?
「ね、それ、シャルルが考えたの?」
クスクス……。
シャルルが何だか可愛く見えてくる。
「なんだ、この空気。庇護を受けているような……」
シャルルは腑に落ちないと言った顔をした。
「ね、シャルルあたしが好き?」
「あぁ、とても。苦しいくらい、好きだ」
あの時と同じ言葉だった。
何も変わらずにシャルルはあたしを思ってくれているんだ。
あたしをまっすぐに見つめる瞳は切なくなるほど綺麗だった。
息もかかるほどの距離で見つめるシャルルの頬をあたしは両手でそっと包み込んだ。
そしてずっと言いたかった言葉を口にした。
かつてシャルルがあたしに言ってくれた最高の言葉を。
「愛してるわ、シャルル。永遠に、あんただけを愛してる」
fin