執事さんから連絡をもらったあたしはさっそくミシェルの執務室へと向かった。
この時間ならまだ自分の部屋には帰ってないはずだわ。
ところがノックをしても返事がない。
とりあえず入ってみることにしてそっと扉を開けた。
「入るわよ」小声で言いながら中へ入っていくとパソコンに向かっているミシェルの姿が見えた。
窓から差し込む太陽の光で白金色の髪はきらきらと輝き、頬にかかる髪で陰影がくっきりと刻まれた横顔はいつもの繊細な雰囲気とは違って見えた。
あぁ、やっぱりシャルルとは少し違うのよね。
「何か用か?」
ミシェルはパソコンから顔を上げることもせず迷惑そうに言った。
「いるなら返事ぐらいしなさいよ」
あたしは文句を言いながら部屋の中を見て少し驚いた。
ミシェルの執務室に入ったのはこれが初めてなんだけど机以外に何もないずいぶんと殺風景な部屋だった。
「何もないのね」
ミシェルはやっと顔を上げると気だるげに前髪を後ろに向かってかき上げた。サラサラの髪は何事もなかったかのようにすぐに元の形を取り戻していく。
「仕事に必要な物は揃っている。物を置くのはあまり好きじゃないんでね」
それにしても机の上にはパソコンと羽根ペンが一つあるだけなのよ。
でもあたしも昔はごちゃごちゃと散らかった中でマンガを描いていたけどある時、締め切り間近の原稿にインクをこぼした事があってもうあれは最悪だったわ。
それ以来、仕事部屋には必要な物しか置かないようにしてたもん。
「あんたも失敗して学んだってわけね」
「も……、ってお前と一緒にするな。オレは合理主義なんだ。それで要件はなんだ?」
そうだった。探りに来たのをすっかり忘れるとこだったわ。
どんな風に切り出そうか、あれこれ考えたあげく、あたしは直球勝負でいくことにした。
「アネットのことどう思う?」
ミシェルは机に肩肘をつき、その上に顎を乗せながら呆れた顔をした。
「そんなこと聞きに来たのか?暇だな、お前」
「失礼ね!別に暇じゃないわよ。で、どうなのよ?」
あたしだってミシェルがどういう反応をするかは想像していたわよ。だけど遠回しに言ったところで同じだと思ったのよ。
だって相手はミシェル。
あたしが探りを入れたところで切り崩せるはずもないもん。
「彼女がどうというより、そもそも人に興味がない」
それはまるで数年前のシャルルを見ているようだった。
きっとミシェルもシャルルと同じように人嫌いになるような辛い経験をしてきたんだと思った。
ううん、もしかしたら生まれてすぐに実父によってキューバへ送られたミシェルの方がシャルル以上に心の闇は深いのかもしれない。
ここはあたしが一肌脱ごう!そう強く思った。
ミシェルにはアネットのような心優しい普通の女の子がそばにいた方が絶対にいいはずだわ。
家柄とかそんなの関係なく、心から通じ合えるようなそんな人と幸せになってほしいとあたしは強く思った。
そうと決まれば心を閉ざしてるミシェルをどうこうするよりも、アネットの背中をドーンと押した方が早そうね。
「わかったわ!あたしに任せておきなさい」
つづく