今日は週に一度、アネットが来る日。
あたしはミシェルとの勉強を終えてアネットが図書室に来るのを今か今かと待っていた。
「じゃ、オレは行くぞ」
ミシェルはいつものようにメイドさんに本を片付けるように言いつけると図書室を出て行こうとした。
「あっ、待って。ペンを置いて来ちゃったみたい」
「机には何もなかったぞ」
「どっかに落としちゃったのかな?あのペンはシャルルに貰った大事な物なの。あんたも一緒に探してよ」
「このオレがか?」
「もちろん!」
イルカ大作戦の開始よ。
あたしは執務室に戻ろうとするミシェルをどうやって引き留めたらいいのかずっと考えていたの。
で、シャルルに貰ったイニシャル入りのペンを図書室の隅にそっと仕込んできたってわけ。
探しているうちに時間が来てアネットが図書室に迎えに来るって手はず。
あたしは白々しく本棚の前でのらりくらりと探しているフリをしてその時を待っていた。
ところがミシェルはメイドを呼びつけるとペンを探すように命じて自分はさっさと帰ろうとしていた。
「ちょっと、ミシェル」
「じゃあな」
そう言うとミシェルは扉に向かって歩きながら後手に手を上げて出て行ってしまった。
待って、うそでしょ?!
これじゃせっかくのあたしの計画が台無しじゃない。
あたしは焦ってミシェルの後を追いかけた。
だけどミシェルは恐ろしく歩くのが早くてあたしが図書室を出た時にはもう姿が見えなくなっていた。とにかく追いかけなきゃ。
まだこの先に居るはずよ。
あたしは走り出し、角を曲がった所でちょうど向こうから歩いて来てたシャルルとぶつかりそうになってしまった。
「慌ててどうした?」
シャルルはとっさにあたしの両肩を掴んで受け止めてくれた。
ホッと胸を撫で下ろしたのもつかの間、そうだ!ミシェルを追いかけなきゃ。
「ごめん!ちょっとトイレに……じゃあね」
シャルルには適当なことを言ってやり過ごし、あたしはミシェルの執務室へと急いだ。
そしていざノックをしようと右手を上げた瞬間、
「そこはトイレじゃないぞ」
ぎくりとして振り返ると眉間にシワを寄せたシャルルが立っていた。
「あはは……」
「マリナ、どういうことか聞かせてもらおうか?」
シャルルはそう言うとあたしの手首を掴かみ、ずんずんと歩き出した。
つづく