お屋敷に戻り、アネットと別れたあたしはお土産を手にシャルルの執務室へと向かった。
ノックをすると部屋の向こうから「入れ」と冷たい声が聞こえた。シャルルの仕事中にあたしがここに来ることはあまりない。きっと仕事関係の人だと思ったんだわ。
あたしが部屋に入るとシャルルは少し驚いた顔をした。
「マリナか、どうした?」
固い表情が急に柔らかくなり、席を立ってあたしのそばまで来てくれた。
「あんたにお土産を渡そうと思ってきたの」
「土産?」
あたしは手にしていた包みをシャルルの前に差し出した。
「今日はどこへ行って来たんだい?」
シャルルは包みを受け取り「開けても?」と笑顔を見せた。
あたしは頷きながらアネットと市内の雑貨屋さんに出かけたことを話した。
シャルルは器用に包みを解き、小箱のふたを開けた。
「ありがとう、嬉しいよ。でもオレがそんなに大変そうに見えたかい?」
「へ?」
シャルルの言っている意味がわからずにぽかんとしているとシャルルはあたしの頭をポンポンと撫でた。
「フクロウってとても縁起の良いものとされているんだ。不苦労って言ってね。他にも福が来る路とも言われている」
あたしはおかしくなってクスッと笑った。
「シャルルでもダジャレなんて言うのね」
「験担ぎと言ってくれないか?」
シャルルは心外だって顔をした。
「じゃあ、イルカは?イルカも何かあるかな。良好な人間関係とか?」
「それは風水学だろう」
呆れるシャルルにあたしはアネットが誰かにイルカをあげようとしている話をした。
「それでね、その相手っていうのはね、たぶんミシ……」
プルップルッ……。
あたしの話を遮るようにシャルルの携帯が鳴った。夢中で話すうちにあたしはシャルルが仕事中だってことをすっかり忘れてしまってた。
「ごめん、喋りすぎちゃった」
「いや、おかけでオレもちょうど息抜きができたよ」
あたしを気遣って言ってくれているのがわかってシャルルの優しさにジーンとした。
「シャルル……」
「今夜は早めに帰るようにする。ディナーをしながらさっきの続きを聞かせてもらうよ」
シャルルは優しくあたしを抱き寄せると額にそっと唇を寄せた。
あたしは照れながら「うん」と答えた。シャルルはあたしを離すとクスッと笑って頬を撫でた。
「赤くなってる」
「いつまでたってもこういうのは慣れないのよ」
あたしが照れながら言うと、
「いつもはもっと触れ合っているのに?」
シャルルは妖しげな光を青灰色の瞳に宿してまっすぐにあたしを見つめる。
「や、やめてよ~」
あたしは数々のシャルルとの触れ合いを思い出し、更に顔を赤くした。
「何を思い出しているの?」
「もう~やだ、シャルルのバカ。じゃあね」
あたしは逃げるように執務室をあとにした。
シャルルみたいに素敵な人にあんな風にされたら誰だって照れるわよ。あたしはブツブツ言いながら一人、部屋に戻った。
久しぶりに外に出てあちこち見て歩いたせいか何だか眠くなってきてソファにゴロンと横になった。
微睡みの中、アネットのイルカのことを思い出した。
結局アネットはミシェルの所へ立ち寄らずに帰ってしまったけど今度来る時にでも渡すつもりなのかな。
そういえばもらってくれるか心配だって言ってたけど、あたしからそれとなくミシェルに聞いてみようかな。
思い立ったが吉日よ。
あたしはガバッと起き上がりミシェルがどこにいるのかを執事さんに聞いてみた。
「ミシェル様はパリ郊外にある関連会社へ視察に行っておりますが、まもなくお戻りになる予定でございます」
「わかったわ。じゃあ、ミシェルが戻ったら教えてちょうだい」
「かしこまりました」
さて、ミシェルが戻るまでの間に一眠りしよう。あたしは再びソファに横になり目をつぶった。
つづく