きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

銀色のタイムリミット(前編)

「ーーでは期限は二十五日とする。ただし、これを過ぎた場合はこちらで選別させてもらう」

ルパートの凛とした声が響き渡り、年寄りどもが賛同の声を上げる。
オレは静かに頷いた。



深々と降り積もる雪を眺めながらオレはどこか落ち着かずにいた。
夕暮れと共に、降り続いた雨は雪へと変わり、一時間もしない内に辺りはすっかり雪景色となった。
庭先の花たちの上にも容赦なく雪は降り積もり、庭木はその枝を雪でたわわにし、色とりどりのアネモネは一斉に雪帽子を被らされたようだ。
紅茶を入れながらジルもまた窓の外に視線を向ける。

「降ってきましたね」

「ああ」

オレはテーブルに近づきカップを手にした。ルビー色の紅茶がゆらゆらと揺れる。

「リストはご覧になりましたか?」

「いや、見る気もないよ」

ミシェルとの争いの末、オレは次期当主候補に再び返り咲いた。だが家訓によれば当主になるには婚姻は必須条件だ。
あれから五年。
アルディ家としてはこのまま当主不在のままでいることは良しとしない。いよいよ来るべき時が来てしまった。

「ご自身で決めないのですか?」

ジルは心配そうな顔でオレを見た。
たとえオレ自身で選んだところで相手を愛することはないと分かっている。だったら誰が決めても同じことだ。
ただ一つの可能性を残し、オレは明日を迎える。
親族会議で今回の話が持ち上がってすぐにオレは手紙を書いた。
もちろん愛しい、ただ一人に宛ててだ。
明日、彼女がもし空港に現れなければオレは文字通り愛のない結婚をすることになる。
わかっていることは一つ。
彼女は今、一人だということだけだ。

まもなく日付が変わろうとしていた。日本では疾うに朝が訪れている時間だ。彼女は今頃、何をしているだろうか。
パリに出発するための準備をしてくれているのだろうか。それともいつもと変わらぬ生活を送っているだけなのだろうか。

彼女には快適な旅を用意した。エールフランスのファーストチケット。機内で出される高級シャンパンであるクリュッグ・グランド・キュヴェを飲みながら空の旅を楽しんでくれることを願って。

窓の外にはきらきらと銀色に輝く雪が降り続いている。この雪は何を運んでくれるのか。孤独か、それとも……。
しかし、誕生日に運命を迎えることになるとは、親族連中もえらいプレゼントを用意してくれたもんだ。



つづく