きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

愛は導かれてパッサカリア 7

「なぁシャルル、まさか幼少期に加害者と会ったことがあるなんて被害者は思いもしなかったんだろうな」

「あぁ。ただ加害者からすれば、その時のことがずっと引っかかっていたんだろうがな」

「だからって10年以上経ってるんだぜ?被害者からしてみたら完全に時効だよ」

「立場が変われば見え方も変わるというものだ。よく覚えておくんだな、ルーカス警視正

「しっかりと心に留めておくよ、アルディ博士。じゃ、また頼むな」

手にしていた解剖所見書を振りながら笑顔を見せる男にオレも片手を上げて応えた。
五年という月日が流れていく中、唯一あの頃の面影を匂わせる存在とだけは切っても切れない仲であった。
カークから直接依頼があった時だけ、オレはこうして法医学研究所へ足を運び、鑑定医の仕事を受けていた。
前日までに頼まれることが多いが、今日のように突然連絡が来ることもある。
その場合はほとんど断ることになるのだが、今日の彼はとても運が良かった。

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「おかえりなさいませ、シャルル様」

玄関に迎えに出てきていたのは、いつものように執事と古参メイド、そして……。

「午前11時より親族会議があると昨日、伝えしたはずですが、まさかシャルルが忘れるはずはないですよね?」

こうして真っ向からオレに発言してくるのは親族の中でも彼女ぐらいなものだ。なぜならオレにとって彼女は自分自身と変わらぬ存在だとオレが認めているからだ。
あの日、オレはやりかけにしてきたモザンビークの現場の医療をジルに託した。
ジルはそれを快諾し、翌日にはパリをたった。
ミシェルとの争いにも勝利したオレは正式にアルディ家次期当主となり、国連への働きかけも果たし、基金を設立させるまでにいたった。
その間ジルはオレの代わりとして現地入りし、医療チームを組むまでに成長させ、さらに現地の人々との橋渡しとなり、オレの構想を実現させることに尽力してくれた。
いわば戦友だ。

「もちろん忘れてはいないが警視庁からの急な呼び出しでやむを得ずだった。それに今回の議題はオレがいても変わるものでもないだろう」

「普段なら午前中に入る法医学部検は断っているのに今日に限って行くなんてわざと欠席したとしか思えませんわ。せめて候補者を選ぶぐらいはできたはずなのに……」

「君はオレに、何を選べと言うんだ」

君にはすべてを話してきたはずだ。
青春の輝きも、苦しみも痛みも……。
だが、オレは先へと進むと決めた。
もう振り返りはしない。

「それは……」

ジルの気持ちはわからなくもない。
だが結婚はあくまでも当主になるための手順にすぎない。
オレは家訓に従って婚姻という契約を交わすだけなのだからな。

「それでは相手の名前ぐらい聞いておこうか」

するとジルは悲しげな眼差しに優しい色を纏わせ、オレをまっすぐに見つめた。

「フレミー公爵家ご令嬢ジュリア様です」

レミールだと?
オレは記憶をたどり、ある光景を思い出していた。
まだ父が生きていた頃に一度だけ、この名を耳にしたことがある。
間違いない。

 


つづく