きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

時を越える夢 4

レアアースの需要についても、ぜひアルディグループの後ろ盾をお願いしたい」

「いいでしょう。中央アジアの資源ポテンシャルの高さへの関心は今も高まっている。ハイテクに不可欠な高機能材料であるレアアースについても同様でしょう」

マルト氏と握手を交わし、交渉は成立した。彼の退室を見届け、沈み込むように椅子に座った。
ノックの後にジルが執務室へと入ってきた。

「今日の来客は先ほどのマルト氏で最後です。シャルル、あまり顔色が良くないですね」

「少し疲れただけだよ。問題ない」

「やはり来客を減らした方がいいのではないですか?復帰してからまだ日も浅いですし」

嗜めるように言いながらジルはいつものように紅茶の準備を始めた。

「一日中ベットで横になっていたから体力が落ちただけだ。すぐに慣れるさ」

オレはプラハでミシェルの手術を受けたらしい。もっとも、意識のないオレの意思は尊重されることもなく行われた。

「来週の誕生日パーティーでは婚約者のお披露目もあります。シャルルがそんな青白い顔ではフルール様も不安になられますわ」

「疲れていても夜の相手ぐらいできるさ」

「そういうことではありません」

ジルには呆れられるとは思ったが仕方ない。こうでも言っておかなければやっていられない。
オレは当主になると決めたんだ。
そのためには結婚は不可欠だ。
相手が16歳だと聞かされた時はさすがに耳を疑った。フランスでは男女ともに18歳にならないと結婚できないのになぜ?
聞けば家訓を一部変更し、婚約=婚姻とみなす決定をしたようだ。
しかもよく親族会議で通ったなと思うような家柄の娘だった。
そんなことはオレにとってはどうでもいいことだ。オレは正式な当主になれればそれでいいからだ。モザンビークへの支援を一刻も早く始めたかった。
しかし初めて会った時、彼女が選ばれた理由が何となくわかった。

「初めまして、シャルル様。苺がお好きと伺ったのでケーキを焼いてきたんです。ご一緒にいかがですか?これ、お願いします」

彼女はそういうとメイドに箱を預けた。
アルディ家へと招待され、一人きりで訪ねてきた彼女が最初に口にしたのがこれだった。
初対面で手作りの品とは不躾な娘だ。
いや、むしろ16歳の彼女が一人でここへ来れたのはアルディの人間になるんだという覚悟をオレに印象付けようとしている大人達の思惑だったんだろう。しかし残念ながら彼女からはそんな覚悟はまったく感じられない。

「フルール嬢、申し訳ないのだが私はあまり甘いものは得意では……」

遠回しにオレが嫌悪を伝えるとなんと彼女は嬉しさを隠しきれないといった表情に変わった。
何だ、この娘。

「ではシャルル様、私が2つ食べてもいいのですか?甘い物が苦手な男性は多いようなので気にしないで下さい。私は逆に甘い物がとても好きなので、これからはシャルル様が苦手な場面ではお役に立てそうですね」

そう言って見せた笑顔はオレに取り入ろうと寄ってくる女たちのそれではなかった。
その笑顔はケーキを余計に食べられることへの満足に対するものだ。オレになどまったく興味がない態度も、むしろ新鮮だった。
オレに対して臆することなく、自分の欲求で生きている姿を前に胸がチクリとした。

 

 

つづく