きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

Reve de continuation 12

名前を呼ばれて尻もちをついたまま顔を上げるとそこには懐かしい顔があった。

「ジルっっ!ジルじゃない!どうしたの?あんたモザンビークに行ってたんじゃないの!?」

ジルはあたしに手を差し出し立ち上がらせてくれると眩しいほどの笑顔をあたしに向けた。

「お久しぶりです、マリナさん。つい先日シャルルに呼び戻されてパリに帰って来たんです」

向こうの暮らしはさぞ苦労があったのだろう。抜けるように白かった肌は、ほんのり日に焼け、少し痩せて見えた。

「ジルのこと、ずっと心配してたの。慣れない土地で苦労してるんじゃないかなって、でも元気そうで安心したわ」

「気にかけて下さってありがとうございます。まさに命の現場でした。限られた物資の中でいかにこの命を救えるか、救いたい、そんな風に懸命に向き合う人々に囲まれてとても良い経験をさせてもらいました。シャルルの当主に復権により、あちらにはアルディ家からの支援が正式に入ることになり、ようやく医療団の派遣と物資の安定供給が開始され、私は戻されたというわけです」

「じゃあ、シャルルも無事なのね。あたしはてっきりどこかに移送されちゃったんだと思って……」

何もかもうまくいったんだ。
これまでの緊張から一気に解放され、胸の奥から込み上げてくる感情を抑えきれずに涙を流した。

「良かったわ、本当に良かった。あんたもシャルルもみんな無事で……」

「マリナさん、心配をおかけしました。私はこの通り元気です。そしてシャルルもルパート大佐に出された全ての条件をクリアし、自らの手で当主復権を果たしたのです」

今、シャルルはプラハからプライベートジェットに乗りパリに向かってるとのことだった。
ジルはすぐにゲストルームを用意してくれてそこであたしはシャルルを待つことになった。
落ち着かない気持ちで窓辺に立った。窓の外には手入れの行き届いた中庭が見えた。前にここに来た時はこんな風にまじまじと景色を見る余裕もなかった。
これまでのことを思い出しながらぼんやりと外を眺めていると黒塗りの車が数台の列を作って走ってくるのが見えた。
きっとあの中にシャルルがいる。あたしは居ても立っても居られずに部屋を出て玄関へと向かった。
長く続く廊下はどこまでも終わらないんじゃないかと思えるほど長く感じる。あと一つ、この先を曲がれば玄関ホールが見えてくるはずだわ。
この先にシャルルがいる。
そう思った時、ふとあたしの足が止まった。連絡も取れないままパリまで来てしまったけどあたしがここにいることをシャルルはもちろん知らない。
シャルルは何て思うだろうか。
今さら……そんな風に思うかもしれない。あの日、小菅であたしは和矢を選んだ。そしてシャルルはあたしに永遠の別れを告げ、颯爽と自らの運命へと歩き出した。それを今になってやっぱりシャルルが良かったなんてことが通用するのだろうか。
シャルルを出迎えるためなのか、何人ものメイドさん達が慌ただしくあたしの横を通り過ぎていく。その様子を見ながらあたしはここにきて怖気付いてしまった。シャルルを恋しく思う気持ちがあたしを臆病にさせる。
シャルルに会いたい、その一心でここまで来たけど後のことなんて考えてもいなかった。
「もう遅いよ、マリナ」
そんな風に言われたらあたしはどうしたらいいんだろう。
あと少し、この廊下の先を一つ曲がれば玄関ホールが見える。あたしはあと一歩が踏み出せずに来た道を戻り始めた。
何をしているんだろう。
意気地のない自分が悔しくて唇を噛みしめた。そうよ、今さら遅いのかもしれない。シャルルに最後の言葉を言われてしまったら、あたしはどうしていいかわからない。
シャルルが無事に当主に戻れたのかが気になって、気になって……一人で行かせてしまったことをずっと後悔していた。そんな日々の中であたしはシャルルへの思いに気づいた。
だけどシャルルは自らの運命に立ち向かい見事勝利を収めた。もう二度とあたしには会いたくないと思っているかもしれない。
そうよ、一度出直そう。
和矢にもらったチケットでのこのこパリに来たあたしとシャルルが会いたいはずがないわ。
ゲストルームに置きっ放しにしてきたポシェットを取りに行かなきゃ。あたしは足早にゲストルームへと向かった。

「マリナっっ!」


つづく