☆今回はお話の中で登場人物が体調を崩す場面があります。キャラがそういう目に合うのは見たくないという方は閲覧をお控え下さい。決して重篤なものではありませんが、読者の方の中でそういった事が苦手な方もいるかもしれないので注意書きをさせていただきました。
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「マリナっっ!」
その声にぴたりと足が止まった。駆けてくる足音が近づいてくる。目を閉じてその声を自分の内へと響かせた。
愛しい人があたしの名を呼ぶ、それだけで胸がいっぱいになった。温かいものが頬を伝って落ちていく。
覆うように後ろから包み込まれた。
ふわりと香る懐かしい香りに頭の芯が震えた。
「マリナ……」
あたしの髪に顔をうずめ、絞り出すような声であたしの名を呼ぶ。
「どこへも行くな」
振り返り、仰ぎ見ればそこには切なげな顔をしたシャルルがいた。
食い入るようにあたしを真っ直ぐに見つめ、あたしの言葉を待っている。
「こんなあたしでもいいの?」
「当たり前だ。君以外に欲しいものなど何もない」
青灰色の瞳から愛しさが溢れ出し、瞳の奥に強い光を宿し、あたしを強く求めていた。
「あたしはあんたを一人で行かせてしまったわ。好きだって言っておきながらあの時、和矢を選んでしまった。こんなあたしを許してくれるの?」
「過ちに気づいたのなら正しい道に戻ればいい。オレは君の幸せを願い、別れを選んだ。もし、君の幸せがここにあるのなら、オレは二度と君を離さない」
シャルルはあたしの腰を攫うように引き寄せ、息もできないほど強く抱きしめた。あたしはシャルルの腕の中で何度もごめんねと繰り返す。シャルルは腕を解き、あたしを見つめる。
「マリナ、オレはそんな言葉よりも君からの愛の言葉が聞きたい」
あたしの過ちを責めることもせず、ただひたすらにあたしを求めてくれるシャルルの大きな愛に涙が溢れた。シャルルの細く長い指があたしの頬をそっと撫でる。
「マリナ、ほら聞かせて」
あたしは頬に触れるシャルルの手をぎゅっと握った。あたしの幸せはここにある。
「二度とこの手を離さないわ。あんたが好き。ずっとそばにいたい」
その言い終えた時にはすでに、あたしはシャルルの腕の中にいた。あたしを囲い込む逞しい腕にいっそう力がこもる。
「オレには君だけだ。君だけを愛している……永遠にだ」
絞り出すようにシャルルはそう言うとあたしをじっと見つめ、頬を傾けて唇を重ねた。愛を注ぎ込むような口づけにあたしは涙が溢れた。
ずいぶんと遠回りをして辿り着いたこの場所を二度と失いたくない、そう思った瞬間、一つ二つと拍手が起こり、次第に大きな歓声へと変わっていく。
いつの間にかシャルルの出迎えに来ていたメイドさん達があたし達のすぐ後ろで「おめでとうございます」「お幸せに」と言いながら抱き合うあたし達を見守っていた。
ハッとしてあたしはシャルルの腕から離れた。こんな大勢の人の前でキスをしてたかと思うと顔から火が出そうだった。
そんなあたしのことなどお構いなく、シャルルはあたしの肩を抱き寄せ、振り返る。みんなが一斉に静まった。
その場にいる全ての者がシャルルの言葉を息を飲んで待った。
「オレは何もかも手に入れた。当主としての地位もアルディの正当な後継者としての誇りも、そして真実の愛も。皆、これからもよろしく頼む」
静寂から歓喜へ、当主争いの終焉は長い緊張からすべてを解放し、平穏を皆にもたらした。
シャルルの言葉に歓声と拍手が起こり、人々は手に手を取り、シャルルの当主復権を喜んだ。
それは幼い頃から本家の長男として育ち、当主になるべくして過ごしてきたシャルルが、ミシェルが現れたことでその地位を追われたことを誰もが気に病んでいた証拠だった。シャルルは決して一人じゃない。たくさんの人に認められ、愛されているんだわ。
そこへ少年が一人、前に進み出た。
「シャルルったら、あんなに苦労して手に入れたって言うのに突然、放り出して行くなんてひどいよ」
少年は大切そうにジェラルミンケースを胸に抱え、拗ねたような顔をしている。
「そんな宝飾品より大切なものが、オレの前から消えて行きそうになったんだから仕方がない。いつか君にもわかる時が来るさ、チビのリュー」
「そうやってシャルルはすぐに僕を子供扱いするんだから!」
シャルルによく似た少年はプイッと横を向いた。
「ほら、子供扱いされたくなかったら、ここへ来てきちんとマリナに挨拶をして」
少年はあたしに視線を向けると青灰色の瞳をきらきらと輝かせて微笑んだ。その瞳はシャルルにとてもよく似ていた。
「初めまして、マリナさん。シャルルの叔父のアンドリュー・ドゥ・アルディです。シャルルは無茶ばかりするから、あ、でもそれは僕を庇ってだったんだけど……だからシャルルがあまり無茶をしないように、これからは僕の力にもなって下さい。よろしくお願いします」
叔父さんってルパートみたいな堅物ばかりじゃなくて、こんなに可愛らしい少年もいるのね。あたしは可笑しくなってクスっとなった。
「あたしはマリナ、池田マリナです。こちらこそよろしくね、チビのリューくん」
するとアンドリューは再び頬を膨らませた。
「ほら、シャルルがチビ、チビって言うからマリナさんにまで言われちゃったじゃないか」
その場にドッと笑いが起きる。誰もが幸福感に包まれ、漂う空気さえ温もりに溢れていた。あたしの幸せはここにある。
そう思った瞬間、隣でシャルルが崩れるように倒れた。
「シャルルっっ?!」
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みなさん、こんにちは!
えーっ?なぜ…今、ここで、そうなる?!ですよね💦
はい、すいません-_-b
続き、早めに書きます。