シャルルがどうして日本に行く事を決めたのか…私はやっとシャルルの抱えていた葛藤を知ることができた。
シャルルにしか兄上を救う事が出来ないなんて…。
シャルルは兄上の危篤を知った時に、自分にしか出来ないと分かっていて取引を延期出来ないか、先方に連絡を入れてたのね。
シャルルは兄上の為に日本に行く事を決めたけど、それで本当に平気なのかしら。
兄上は助かってもらいたい。だけど兄上を救いに行く事でシャルルが当主を追われるような事があるなら、それは話が別よ。
「ありがとう、シャルル…。だけど当主の資格がなくなったり本当にしない?
ジルはとっても大切な取引だからって心配していたほどよ。」
シャルルは私の涙を指でそっと拭うと気にするなと言ってくれた。
「マリナのためじゃない。オレが自分で選んだ事だ。こんな事でオレが当主の座から降りるわけないだろう。
取引は先延ばしにしただけのことだ。
この手で取り戻すさ。
さあ、もう日本に行く時間だ。先にカオルの所へ行って待っているんだ。いいね?」
私が負担に思わないようにシャルルは自分が選んだ事だと言ってるんだわ。
こんな時まで私を気遣ってくれる。
今はシャルルの言葉を信じるしかない。
薫の部屋に戻りながら涙を拭いた。
泣いた顔で薫に会うわけにはいかないものね。この事は薫には黙っておこう。
薫に余計な心配は掛けたくない。
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「薫、気分はどう?」
あたしとガイだけが部屋に残された。
兄貴の事を聞かされた瞬間、あたしは胸に激しい痛みを感じた。
あの日以来、発作はなかったのに兄貴が絡むとやっぱりだめなようだな…。
情けない。
久しぶりに会うガイはあの頃よりも貴族らしくなっていた。こんな時じゃなければ再会も喜べたんだけどな。
「あぁ。薬がいいんだろう。もう苦しくない。
それにしても、なんでガイがフランスにあたしを訪ねて来たんだ?」
「日本に連絡したらパリにいるって聞いたんだよ。パリなら1時間で来られる。
日本で会ったきりだし、あの後どうしたか気になっていたんだ。そしたらマリナまでいるもんだから驚いたよ。」
嬉しそうにしていたのも束の間で、そのサファイヤブルーの瞳には悲しげな影を落としていた。
こいつ、ショックなんだろうな…。
マリナが和矢じゃなくてシャルルとくっついてるのが納得できない様子だったしな。
「おいガイ、そんな顔するなよ。
女はマリナだけじゃないさ。
あの子はあの子なりにずいぶん苦しんだんだ。
和矢の元へ戻りながらもシャルルに気持ちが残っていてさ。やっとの思いで和矢とさよならしてパリまで来たんだ。
マリナが好きだったら分かってやりなよ。昔みたいに横からちょっかい出すなよ。あんなところシャルルに見られたらおまえさん二度とフランスに入国できなくなるぞっ!」
あたしはからかい半分でそう言ったけど、こいつ笑いもしない。
まいったな。ガイのやつ思い詰めなきゃいいんだけどな…。
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私が薫の所へ戻る途中でスーツを着た二十代後半の男にすれ違う瞬間に声を掛けられた。
「マリナさん、シャルルのために取引しませんか?」
いきなり何よっ?!誰?この男の人…。
「誰よ、あんた!」
「私はアルディ家の親族会議長補佐のクレールと申します。」
つづく