きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

Reve de continuation 11

翌日、午前中の便でパリへと向かった。ドゴール空港へ着いたのは夕方近くだった。タクシーを探してキョロキョロと空港出口を歩いていたけど乗り場には長い列が出来ていてすぐに見つけることができた。
お金の心配はなかった。
なぜなら日本を経つ前にありったけのお金を持って行こうと銀行に寄ってきたあたしは通帳を見て愕然とした。
これまで貯金なんて言えるものはしたことがなかった。そんな余裕なんてなかったし。
和矢にもらったチケットがあるから、とりあえず空港までの電車賃とパリの空港からアルディ家までのタクシー代だけあればどうにからなると思っていた。
だけど驚いたことに通帳に記載されていた金額はこれまであたしが見たこともないような数字がズラリと並んでいたの。
これ、シャルルだわ……。
すぐにそう思った。家賃が支払われていた答えがそこにあった。あれだけ入っていたら滞納のしようがないもの。
あたしはそこからある程度の金額を引き出し、空港へと向かったのだ。

二十分ほど待ってやっとあたしの順番が来た。タクシーに乗り込み、フランス語が話せないあたしは「アルディ、アルディ」とひたすら連呼し、何とか運転手さんに伝えることができた。
閑静な住宅街の一角に差し掛かるとひときわ大きな建物が見えてきてあたしはホッと胸をなでおろした。
見当違いの場所に連れて行かれやしないかと内心ヒヤヒヤだった。
「ストップ、ストップ」と再び連呼し、門の前で止めてもらった。
料金メーターの「065.40」という数字はたぶん65.4ユーロってことだと思った。フランス語が通じなくても無事にアルディ家まで連れて来てくれたお礼の意味も込めて100ユーロを運転手さんに支払って車を降りた。
大きな門をくぐり、あたしは記憶をたどりながら正面玄関へと歩き出した。
道路脇を歩くあたしの横を何台もの車が走っていく。相変わらず訪問者が絶えないのねとそんなことを考えながら、こりゃまともに面会を待っていたらいつになるんだろうかと不安になった。
玄関を入ってすぐのところで面会待ちの受付を済ませた。思った通り渡された番号は八三六番とひどいものだった。第八の間で待つように言われた。
受付の人にさりげなくシャルルの居場所を聞いてみたけど、思った通り教えてはくれなかった。
部屋に入ったあたしは辺りを見渡し、壁に掛けられている電話を見つけた。
内線電話用に置いてあるけどきっと外線に切り替えて使えるはずだわ。
通りがかったメイドさんを取っ捕まえて電話を貸してもらえないかと頼んでみることにした。アルディ家では全員が日本語を話せるのは知っていた。
ベテランのメイドさんだと融通が効かないかもしれないと思ってできるだけ若そうな女の子に声をかけてみた。

「すいません、スマホを失くしてしまって困っています。電話を貸してもらえませんか?」

案の定、あたしと年があまり変わらなそうなメイドさんは快く承諾してくれた。

「それはさぞお困りでしょう。あちらの電話をお使い下さい。最初に0を押して頂ければ外線に切り替わります」

「ありがとう。ちなみにシャルルは今、お屋敷にいるの?それとも研究所?」

とりあえず情報が欲しくて彼女にも聞くだけ聞いてみると

「シャルル様のご予定はわかりません。ただ第八の間まで使用したのは久しぶりのことなので、どこかへお出かけになられているのかもしれません」

やっぱりシャルルはどこかへ連れて行かれたのかもしれない。ポシェットから和矢にもらったメモを取り出し、早速シャルルの携帯にかけてみた。
呼び出し音が二十回を超えても出ない。
諦めて受話器を元に戻した。
どうしよう。
ここにジルがいればこんな時、力になってもらえるのに今は遠いモザンビーク。辺りを見渡せばシャルルの面会待ちの人達は、お茶を飲んだり、ボードゲームをしたりと思い思いに過ごしている。誰もシャルルの窮地を知らないんだわ。
考えてみれば彼らはみんな、アルディ家当主のシャルルに用事があってこうして待っているだけで、他の誰かが当主になればその人に面会をするだけなんだわ。
でもあたしはそうじゃない。あたしはシャルルに会いたいのよ。
そうだ!ルパート大佐を探そう。彼ならシャルルがどうなったのか良くも悪くも知っているはずだわ。
あたしは思い立ち、第八の間を後にした。部屋を出ると目の前には長い廊下が左右へと延びていた。ルパート大佐ならきっと入り口近くじゃなくてもっとお屋敷の奥にいるはずだわ。どうせ聞いたって教えてもらえないんだったら自分で探すわ。
長い廊下をひたすら歩き、曲がり角に差し掛かった時に向こうから来た女の人とぶつかってしまった。後ろに尻もちをついたあたしは思わず謝った。

「あ、ごめんなさい。イテテテテ……」

「マリナさん?!」


つづく