きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

愛は導かれてパッサカリア 6

ここへ来て十日。
あたしは何不自由なく暮らしている。
バランスの良い食事と快適なベット。お金の心配をすることもなく、ただ毎日絵を描いたり、庭を散歩したりと陽だまりのような生活を送っている。
でもあたしの心は鉛のように重く沈むばかりだった。
日本でルパート大佐と再会した時、あたしは完全に浮かれていた。シャルルがあたしを迎えに行くようにと大佐を寄越したんじゃないかって勝手に思い込んでいたの。
シャルルに会ったらまず何を話そうか、どんな顔で会おうか、それこそシャルルが会いたかったと言ってくれるんじゃないかとさえ思っていた。
その全てはあたしの思い上がりでシャルルには結婚の話があり、すでに婚約者も決まっていた。
シャルルはあたしとの未来ではなく、別の人と未来を見て歩き出していた。

 

「おはようございます、池田様。朝食をお持ちしました。起きられますか?」

「おはようサーラさん。でもあまり食べたくないかな」

あたしがベットの上で体を起こすと、サーラさんはあたしの背中にさっとクッションを入れて座りやすくしてくれた。
あたしがこの別邸に来てからサーラさんが身の回りの世話をずっとしてくれている。
年はうちのお母さんと同じぐらいなのかな。
あたしの食欲がないのはホームシックから来てるんじゃないかって心配してくれてるの。
まさかシャルルが婚約してたことがショックだったとも言えるはずもなく。

「少しは食べないといけませんよ。ルパート様が心配なさいます」

「それは絶対にないと思うけど」

「いいえ、ルパート様がご自身のお屋敷へ女性の方をお連れになられるのは池田様が初めてでございますから」

「え?ここって大佐の家なの?アルディ家の別邸の一つだって聞いていたんだけど」

「ただの別邸ではございません。数ある別邸の中でも、より本邸に近い特別な別邸でございます。筆頭親族であり、先代のロベール様の弟君でもあるルパート様の私邸でございます」

いくつかある別邸の中からここを選んだって言ってたけど、まさか大佐のお屋敷だったとはね。
おかげでサーラさんには変な誤解されちゃったみたいだけど。
もしシャルルが知ったらどう思うかしら?
そんな事を考えたところで何も変わらないとすぐに気づく。
そしてますます気分は沈む。
 
「ごめんなさいサーラさん、やっぱり食欲がなくて」

「そうおっしゃらずに見るだけ見てみて下さい。今日はいつもと違う物にしてみたとシェフが言っていたんですよ」

「わざわざ、あたしのために?」

真っ白なクロスが掛けられたワゴンには白いご飯と味噌汁、それに卵焼きや焼き魚、煮物らしき物が行儀良く並んでいた。

「一口だけでもいかがですか?」

サーラさんは優しく語りかけるようにあたしをダイニングテーブルへと誘う。サーラさんやシェフの方の優しさに目の奥に熱いものがこみ上げてくる。
あたしはゴシゴシと目を擦り、ベットから降りて箸を手に取った。
久々の日本の味はとても温かく、心に沁みた。

 

 

つづく