きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

Reve de continuation 10

こたつの上に置かれた白い封筒。
手を伸ばし封を開けると中には日付の入っていないパリ行きのチケットとメモが一枚入っていた。
あたしはチケットを置き、そのメモを開いてみた。そこには几帳面な文字でチケットについての説明が書かれていた。
和矢がくれたこのチケットは、いわゆるオープンってやつで一年以内であればいつでも好きな時に利用できるから出発日が決まったら空港に電話をして予約をするればいいらしい。

そしてその下には数行ほどの間をあけて
「001-33-1-343…」シャルル携帯
「001-33-1-269…」アルディ家
と書いてあった。シャルルが出なかった場合を考えてアルディ家の代表番号まで教えてくれたんだ。
和矢はこれをどんな思いで書いてくれたんだろう。切なさが込み上げ、溢れそうな涙をあたしは押し戻すように天井を見上げた。
幸せになれと言ってくれた和矢の気持ちを考えたら今、あたしが泣くのは違うと思う。泣いている場合じゃないんだわ。
ふぅっと息を吐き、気持ちを落ち着かせ、あたしはメモに視線を戻した。
この先にシャルルがいるんだ。
期待と不安で心臓がドクンドクンと騒ぎ始めた。
シャルルの声を聞いた途端、泣いてしまいそう……思わず手にした受話器を元に戻した。
ふぅ……だめだわ。
もう一度深呼吸をして再び気持ちを落ち着ける。

「よしっ」

両手で頬をパンパンと叩いて気合を入れ、受話器をあげた。
シャルルが出たら何から話せばいい?
会いたいと言ったらシャルルは何て言うだろう?
今さらだと言われないかしら。
シャルルはもうあたしのことは過去の事だと気持ちの整理をつけているかもしれない。
考えれば考えるほど次第に不安になってくる。そしてあたしは手にした受話器を再び置いた。
シャルルがあたしを好きでいてくれた時には感じたことのない、不確かな物への不安が自分の内に生まれていることにあたしは気づき、そして確信した。
きっとこれは恋だと。
あたしはシャルルに恋をしているんだ。
相手がどんな反応をするのかが、こんなに不安なことだって知らなかった。
再び受話器をあげ、震える手でダイヤルを回した。
繋がる直前に鳴るプツっという音の後、聞こえてきたのは懐かしいシャルルの声だった。

Bonjour vous etes bien……」

「もしもし、シャルル?あたし……」

「…… sur le repondeur d'Hardie.
Je ne suis pas disponible pour le moment ……」

あたしの言葉などまるで届いていないみたいにシャルルは流れるように美しいフランス語を話し続けた。

「シャルル……?」

あっ!
やっとのことで留守番電話だと気づく。メッセージを入れようと思ったけどピーの音がしないまま電話は切れてしまった。
もしかして電話に出れない状態ってこと?まさか移送されてるとかじゃないわよね?
あたしは慌ててアルディ家の代表番号に電話をかけた。

「Allo.Ceci est Hardie.Qui es-tu?」
(アロー スゥシエ アルディ、キエチュ)

わっ、またフランス語だわ。
でも今度は留守番電話じゃなく、人の気配がする。とにかく何か話さなきゃとあたしは焦った。

「あ、あたし日本の池田麻里奈と言いますがシャルルはいますか?」

一瞬の間の後、すかさず日本語が返ってきた。

「申し訳ございませんが当家ではシャルル様へのお電話での取り次ぎは致しかねます。こちらへお越し頂き、面会の手続きを済まされた方から順次ご案内しております」

執事さんなのかその男の人は丁寧に答えてくれた。でもあたしは会いに行く前にシャルルの様子を知りたいのよ。

「あの、面会じゃなくてあたしはシャルルの様子が知りたいのよ。孤島に移送されたりしてないわよね?!」

「電話にて当家に関する情報についてお答えすることは一切致しておりません。では失礼し……」

絶対、怪しまれてるわ。
このままじゃ切られちゃう。

「ちょっと待って!ルパート大佐は?」

そうよ、大佐ならシャルルほどガードが固くないかもしれない。電話口に引っ張り出せるかもしれないわ。

「ルパート大佐でもいいから繋いでもらえませんか?池田麻里奈から電話がきてるって言ってもらえれば分かると思うんだけど……」

「申し訳ございませんが、お電話では身元確認が取れないため取り次ぎは一切致しておりません。然るべき手続きを済まされて……」

「わかったわ」

しばらく粘ったけど電話じゃ埒が明かない。あたしは仕方なく電話を切った。
こうなったら突撃訪問しかないか。
とにかく今は、シャルルの無事を確認するために一刻も早くパリに行かなきゃ!
こうしてるうちにもシャルルは連れて行かれちゃうかもしれない。
二度とシャルルに会えなかったら……。
失う怖さと激しい後悔を胸にあたしはパリへと急いだ。


つづく