車から降りてきたのは薄暗い中でも目を見張るようなブロンドの髪の若い男たちだった。
えっ?外国人っ?!
二人は車から降りると鋭い視線を辺りに配り、周囲を気にしている。
すかさず一人があたしの後ろに立ち、もう一人はあたしの前に立ち塞がった。
人通りが少ないのをいいことにあたしを誘拐するつもりなんだ。
どうにかして逃げなきゃ。
でもどうやって?!
ひぇー!!
さっきよりもピンチが加速してるっ!
するとあたしの後ろに立つ男が車のドアにさっと手を伸ばした。
「お乗りください」
えっ?
聞こえてきたのは日本語だった。
しかもその口調はとても丁寧。
よし、言葉が通じるなら一か八かだわ。
これだけ周りを気にしているぐらいだからあたしが騒いだら彼らも焦って逃げていくかもしれない。
「あんた達は誰?!あたしに何の用よ?!」
男たちは表情を変えることなく、ただ黙ったまま何も答えない。
そうか!きっと「お乗りください」だけ覚えてて、ただ言っただけなのかもしれない。これじゃあたしが何を言っても関係ないじゃない。
すると、突然車の中から声がした。
「そう喚くな。いいからさっさと乗れ」
後部座席からだわ。
しかも、この声……。
あたしはとっさに車内をぐっと覗きこんだ。
そこにはグレーがかったサックスブルーの瞳と潔癖な感じのする頬、そして輝くようなインジゴ・ブルーの軍服姿の男がいた。
男は長い足を持て余すように座っていた。
「ル、ルパート大佐っ?!」
「ほぅ、私を覚えていたか」
「当たり前よ!あんたには何度も命を狙われたからね。そう簡単には忘れないわよ」
「おまえを狙ったわけではないがな」
キリっと切れ上がった目尻で冷やかな笑みを浮かべた。
ルパート大佐はわざわざ昔の話をするために来たわけじゃないわよね。
ということは、まさか!
「シャルルに何かあったの?!」
ルパート大佐はチラッと腕時計に目をやった。
「あと1分36秒で出発する。説明はあとだ」
筆頭親族のルパート大佐が自ら日本に来たってことはきっとよっぽどのことなんだ。
でも……5年もたった今になってどうしたんだろう。
走る車の中でルパート大佐から説明されたのはこれから高速を使って空港に向かうこと、そのままパリへ飛び、朝には着く予定ということだけだった。
あたしが知りたいのはそんなことじゃない。
「ねぇ、シャルルは?!シャルルに何があったのよ?ちゃんと説明して!」
「シャルルが気になるのか?」
ルパート大佐は目を細め、あたしを見下ろした。
かつてあたしに孤島へ同行するのかと聞いてきた時と同じ目だった。
「そ、そりゃ友達だし」
ルパート大佐がどこまであたし達のことを知っているかはわからない。
でもあの時、あたしは和矢と生きていくことを選んでシャルルを切り捨てた。
一度はマルグリット島へ行くと言いながらあたしはそれを覆して和矢を選んだ。
ルパート大佐はそんなあたしの心変わりをどう思っていたんだろう。
「シャルルには何の問題も起きていない」
「それじゃ、一体あたしは何をしにパリに?」
「当面はわれわれの保護下で生活してもらう」
「どういうこと?当面ってどのくらい?あたしにだって生活があるのよ。そんなに長くはいられないわ。それにパスポート!パリに行くって言ってもあたし、普段は持ち歩いてなんかいないわよ」
「これか?」
そういうと赤色のパスポートをポケットからさっと取り出し、中が見えるように開いて見せた。
そこにはまだ17歳だった頃のあたしがいた。
でもたしかパスポートはタンスの一番上の引き出しに入れておいたはずだけど、ってまさか!
「大家さんに開けてもらったの?!でもよく開けてくれたわね。このところ家賃払ってないんだからあんまり変なこと頼まないでちょうだい」
するとルパート大佐は明らかに侮蔑の色を浮かべた目であたしを見下ろして言った。
「ちゃちな鍵だった。15秒で開いたぞ」
がぉーっ!!
どうなってるのよアルディ家の人達って!
つづく