きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

Reve de continuation1

久しぶりのわが家は閉めっきりにしていたせいか、モワッとした空気が漂っていた。窓を開け放ち、新鮮な空気を部屋に取り込んだ。
白だったことを忘れてしまいそうなほど薄灰色になったレースのカーテンがひらりひらりと風に揺れる。

「うっ、寒いっ」

誰に言うでもなくあたしは呟き、こたつのスイッチを入れて台所へと向かった。
やかんに水を入れ、コンロに乗せる。
カチッカチッ。
六回目でやっと火がついた。
戸棚から急須と湯呑み、実家から送られてきた茶筒を出す。
一刻も早く暖をとりたくて完全に沸騰するまで待てず、注ぎ口からわずかに湯気が立ち上るとすぐに火を止めてお茶を入れた。お茶の葉が開き切る前だったのかずいぶんと薄緑色のお茶になってしまった。
仕方なくそれを一旦、急須に戻し、少し待ってから再び入れ直した。
今度はしっかりと緑茶の色になった。
湯呑みの熱で暖をとるように両手で持ち、こたつの上に置くとコートを脱ぎ捨て素早くこたつに入った。
足から次第にポカポカしてきて、お茶をすするとさらに全身が温まり始めた。
座布団を半分に折り、それを枕の代わりにしてあたしはゴロンと寝転び、そっと目を閉じた。

自らの運命へと一人で立ち向かっていくシャルルの姿が瞼に浮かぶ。
もう駄目だと思った瞬間、本家からの緊急連絡。シャルルの強運に誰もが驚愕した。
シャルルを見送った後、あたし達はタクシーに乗り、小菅駅でまず美女丸を降ろし、あたしはアパート前で降ろしてもらい、そこで和矢とガイと別れた。

頬を冷たい風が容赦なく撫で付け、あたしはぬくぬくしたこたつから這いだし窓を閉めた。
一着しかないコートが部屋の隅でくちゃっとしている。ハンガーに掛けようとしたその時、ポケットから白い物がチラッと見えた。
それは和矢に宛てて書いたあたしの手紙だった。
『和矢を忘れ、オレを好きになること』これが生きる希望を失ってしまったシャルルがあたしに出した条件だった。あたしは消えてしまいそうな命を前に和矢と別れることを決めた。
そうすることでしかシャルルを救えないと思ったから。
そうだ……あの時、あたしはシャルルと一緒にいると決めた。
それなのに空港で和矢の姿を目にした瞬間、それまでの全てが吹き飛んでいった。懐かしさから自分が選んだ未来を後悔した。だけどそれを口にすることはできなかった。
そして薫と兄上の手術が終わるのを待ちながら、あたしは自分の恋にさよならし、シャルルと孤島に行くと決めていた。
シャルルをあのまま一人で行かせるなんてあたしにはできなかった。
そんなあたしの気持ちを察したシャルルはこの手紙をくれた。その時のシャルルの気持ちを思うと胸が締め付けられるようだ。
でもシャルルがこの手紙をくれた時は強制移送される直前だった。
もし、あと少し本家からの連絡が早かったら……。
一筋の光が未来を照らしていたら……。
それでもシャルルはこの手紙をあたしに渡していたのだろうか。
あたしは手紙を見つめながらそんなことを考えていた。



つづく