どういうことっ?!
なんでマクソンはシャルルを知っているの?もしかしてそれであたしに近づいてきたの?でも何か企んでいるようには全然見えない。
するとマクソンは慌てて両手を振った。
「待ってください。そんなんじゃありません。僕、わりと人の名前を覚えるのが得意というか、それだけです」
その言葉を聞いてあたしは思い出した。
そういえば昨日もアドルフの名前を1回で覚えるなんてすごいのねって話をしたわ。
「そうだ、シャルル。マクソンはガイドの仕事をしているからすぐに顔と名前を覚えちゃうって言ってたわ。それであんたのことも知っていたのよ。だってあたし、シャルルがここに着いたらガイドを頼むか聞いてみるって話をマクソンにしたもん」
あたしはホッとしてシャルルの横に並び出た。でもシャルルはまだ警戒しているみたいで表情は硬いままマクソンを見据えている。
「だとしてもマリナ、君はオレをシャルルとしか言ってないはずだ。なぜオレがアルディ家の人間だと知ってるんだ」
たしかにあたしはシャルルとしか言ってないわ。だったらどうして?
「そ、それは捜索に参加するためにここに来ていたダイバー仲間が言っていたんです。シャルル・ドゥ・ アルディっていうフランス人が政府に捜索依頼をしたらしいって。政府を動かすなんてずいぶんとえらい人が来ているんだなって話をしたんです」
それを聞いてようやくシャルルもマクソンへの警戒を解いたようだった。
「なーんだ!そういうことだったのね。ジルが今回はお忍びだからアルディの名前は出さないようにって言ってたけどシャルル、あんたが言っちゃってたってことね」
「君の命には変えられないからな。ところで、マクソン」
シャルルはそういうとさりげなく隣に立つあたしの腰に手を回し自分の方へとぐっと引き寄せた。
その動きはごく自然でまるで恋人たちが寄り添うようにしか見えないだろうけどその手にはものすごく力が入っていてあたしは驚き、シャルルを見上げた。
シャルルが人と話す時にこんな風にあたしに触れることなんてない。
一体どうしたんだろう?
「先ほどは失礼した。今回は彼女も連れているせいか普段より用心しすぎたようだ。それで私に頼みたいことというのは?」
シャルルの態度が軟化してホッとしたのかマクソンは人懐っこい笑顔を見せると後頭部をポリポリとかいた。
「いえ、気にしないで下さい。僕の方こそ誤解を招くような言い方をしてしまってすいませんでした。それでお願いというのはーー」
***
海岸に沿って等間隔に植えられたヤシの木の向こうに消えて行くマクソンを見届けるとようやくシャルルはあたしを引き寄せていた手を離した。
「シャルル、どうかしたの?」
シャルルはマクソンが消えていった一本道を見据えながら言った。
「マリナ、あいつを信用するな」
「え?」
つづく