「わかった。すぐに送ってくれ。いや、君は戻らなくていい。明日は帰るだけだからな」
翌朝、シャルルの元に一本の電話がかかってきた。
シャルルの話し方からして相手はアドルフだと思った。
そういえば昨晩からアドルフの姿を見てないけど、検査に時間が掛かっているのかしら、と思いながら聞き耳を立てているとすぐに電話は終わった。
「今の電話、アドルフ?戻らなくていいって一体どこまで行ってるの?たしか構成鉱物を調べに行ったのよね」
あたしが矢継ぎ早に質問すると、シャルルはネクタイをきゅっと締めながらさらりと答えた。
「パリだよ」
パ、パリ?
「アドルフはこの島にいるんじゃないの?」
「この島にはあいにく構成鉱物を調べる施設がなくてね。アドルフには昨日のうちにパリ北部にある国立地質産業調査機構に飛んでもらったんだ」
シャルルは何でもないといった顔でそういうとノートパソコンを開いた。
島に同行させられた上にバカンスらしいことは何もせずに帰らされたアドルフにあたしはちょっぴり同情した。
でもこの島に戻って来いって言われなかっただけ、まだマシかしらね。
だってまたこれで調査が必要なことでもあればきっと呼び戻されるわよ。
そしたらアドルフは13時間かけてまたここに来るんだ。あたしはそんな事にならないようにと心の中で祈った。
「それで構成鉱物は一致したの?」
シャルルはノートパソコンを操作しながらあたしの方をチラッとだけ見ると、
「ドロマスト式骨材判定で92.76%一致した。アルカシリカ判定であれば99%に近い結果が出るはずだが、今回はなんせ時間がなかったからね。不純含有物質については目をつぶったよ。今、検査結果をベリーズ本土の警察本部長宛に送ったところだ。明日にはプレムス建設へ家宅捜査が入るはずだ」
うわ、だめだ。シャルルはちゃんと日本語で話してくれているのに、あたしに構成鉱物の知識がなさ過ぎて会話になりゃしない。こうなればシャルルの頭脳と顔の広さに全てお任せすることにして、あたしは万が一、調査が必要になったらアドルフを目一杯応援しようと心に決めた。
ホテルを出るとシャルルは夏風に揺れるヤシの葉が並ぶ海岸沿いへと車を停めた。
輝く波しぶきに挑むサーファーの姿や、砂浜で楽しげにしている人達の姿が見える。
シャルルは砂浜に降り立つと辺りの人達に声をかけ始めた。
サーファーや売店の人はネクタイ姿のシャルルに一瞬、身構えつつも、気さくに応えてくれている様子だった。
残念なことに会話は全て英語なのであたしには話の内容は全くわからない。
これはパリに戻ったら英会話をしなきゃいけないと思うほどにあたしは蚊帳の外だった。
一通り話しを聞き終えるとシャルルは何か確信を得たのか満足げな顔であたしを振り返った。
「見えてきたぜ。オレを遺跡破壊の犯人に仕立てようとした奴の影が」
つづく