翌日、ルパートの真意を確かめるため、オレは別邸へと向かった。マリナと再会したあの日も、オレはルパートの気持ちを探るべく別邸を訪れた。ルパートはオレが来ることまで読んでいたのだろう。
「シャルル御坊ちゃ……御当主様、いかがされましたか?」
サーラは慌てたように口に手を当てた。マルセルのおかげでしばらくサーラには子供扱いされそうだな。
「ルパートが戻ったと聞いたんだが、話がしたい。呼んでくれるか?」
「かしこまりました。では応接間でお待ちください。ルパート様を呼んで参ります」
ほどなくしてルパートが応接間へやってきた。軍服を着ているということは帰ってきたばかりのようだ。
「久々の帰宅だそうだな、ルパート」
ルパートは切れ上がった目を気だるげに細めた。
「警備の面から本邸に次いでここが一番安全だと考えた結果だ」
「留守にしていたのは賢明だったな。さすがに抜け目がない」
「特に今回はお前を敵に回すのは得策ではないからな。それで用件を聞こうか。すぐに軍へ戻らなければならない。短めに頼む」
ルパートにしては珍しくリミットを口にしなかった。腕に付けている時計も見ていない。表情からは読み取れはしないが、つまりオレがフレミール家との婚約をどうするのか早く言えということだ。
「マリナをアルディへ迎えたいと考えている。だが問題が一つある。結契の儀を済ませた今となっては婚約を解消するのは困難だろう。損害が発生するとなれば親族会議も通らないだろう。そこでマリナを正妻ではない形で迎えるつもりだ」
「彼女との関係をそのままでジュリアと結婚する気か?」
「フレミール家のお嬢さんには悪いがそういうことだ。初めから愛のない政略結婚だから問題はないと思うが、マリナの方は会議の場でその存在を認めさせる必要がある。そこで議長である君の後ろ盾を借りたいと思って今日は来た」
「話にならん。私は失礼する」
ルパートはイスを蹴るように立ち上がった。出て行こうとするルパートの背に向かってオレは言葉を続けた。
「オレは本気だ。彼女にはアルディ夫人というポストを与えるが、子をもうけるつもりはない。代わりにマリナとの子供を養子とし、その子にアルディを継がせようと思っている」
「シャルル、きさま!自分が何を言ってるのかわかってるのか?!」
振り向きざまにルパートがオレに掴みかかってきた。いつもの冷静さは影を潜め、ギラギラとした瞳にはオレへの憎しみが映し出されている。
少し刺激しすぎたか。
「ルパート、君がなぜ熱くなるんだ」
オレの胸元を掴む手を掴み返すとルパートはハッとしたように手を離し、着崩れたオレのシャツを整えた。
「すまない、つい興奮した」
そう言って再びオレに背を向けた。
これ以上感情を出さないように自制しているのがわかった。
「だが、ジュリアのことも少しは考えてやってほしい」
「なぜそこまで彼女のことにこだわる?」
するとルパートは諦めたようにため息を吐いた。
「初恋の相手だからだ。できればジュリアには幸せになってもらいたい。それだけだ」
やはりな。
「あいにくオレにはマリナがいる。彼女を幸せにすることはできない」
「だから少しは考えてくれと言っているのがわからーー」
今にも飛びかかって来そうな勢いのルパートの言葉をオレは遮った。
「だったらルパート、君が彼女を幸せにすればいい」
「なっ……」
「そもそもフレミール氏はオレにかなりの嫌悪感を抱いているはずだ。なぜならオレが結契の儀の際にそう印象操作をしたからだ。それでもフレミール家は解消を言ってくることもなくマリナに行き着いた。つまり賠償問題に至ることなく、かつアルディ家との繋がりも捨てがたいと考えてるはずだ。だったらアルディ家の中でも地位の確立されている筆頭親族である君ではどうかとーー」
「それでフレミール家が納得するとでも思っているのか?!」
ルパートはオレの突飛な話に苛立ちを隠せない様子だ。
「フレミール家には君に話したようにマリナの存在を伝えた上で、ひとつ提案をしてみた。先方は問題の多い当主のオレよりも、筆頭親族であり、空軍でも潔癖だと有名な君との婚約にとても積極的だった」
「お、お前、そんなところまで話を進めたのか?!でもなぜ、そこまで?」
冷静沈着なルパートにしてはいつになく慌てている。
「マリナの望みだからだ。それだけだ。親族会議の際はマリナとのこと頼むぞ、ルパート」
つづく