きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

時を越える夢 14

ジルの話によると今朝になって突然、ウォンヌ家からパーティーへの参加を辞退したいと連絡があったそうだ。アルディ家としては格下のウォンヌ家からの婚約の解消に面目を潰されたというわけだ。しかもオレに扮したミシェルがこれをあっさりと聞き入れたことで、このミシェルの行動はアルディへの逆心ではないかと長老達の間ではちょっとした騒ぎになっているらしい。
しかしオレがマリナを迎えに行ってることを唯一知っていたミシェルにしてみれば他に選択肢はなかったのだろう。


遠くにアルディ家の門が見えてきた所でオレはポールに声をかけた。


「裏門へ回ってくれ」


「かしこまりました」


今はまだ親族連中にマリナを連れてきたことを知られるわけにはいかない。
計画では17時から始まるパーティーにはどうあってもオレは間に合わない。だから招待客の出迎えと冒頭の当主挨拶、そして来客の挨拶が終わったところでミシェルは一旦下がり、そこでオレと入れ代わることになっている。
オレはミシェルと入れ代わるまでの僅かな時間でフルールを説得して今日の婚約発表を中止する予定だったんだが、まさかこうも都合よくウォンヌ家の方から婚約の取り止めを言ってくるとは思いもしなかった。どんな条件を出してくるかもわからないだけにこちらから話を切り出さずに済んだのは幸運だったというわけだ。
あとは親族会議でマリナを認めさせ、パーティーで先延ばしにした婚約発表を改めてやればいいだけの話だ。
ただ格下とはいえ旧貴族のウォンヌ家でさえ妥協したと思っているような長老達を相手にどうやってマリナを認めさせるかだ。


裏門へ回って敷地内へ少し入った所で車を降りた。


「ジル、先に行っててくれ。オレも後から行く」


「わかりました。それではマリナさん、また」


「そうね。また後でね、ジル」


走り出す車を見つめるマリナの後ろ姿は、どこか儚げでまるで今にも消えてしまいそうなだった。そんなマリナをオレは後ろからそっと抱きしめた。


「シャルル?」


「マリナ、まだ迷いがあるならここが最後の砦だーー」


確かめておかなければならない。
あの扉の先には地下へと続く階段がある。
そこへ足を踏み入れたらもう後には引けない。


「ーーあの扉から地下道に入る。誰にも見られずに君をオレの部屋まで連れて行くつもりだ。ただし、行ったら最後、二度とここからは出られないと思ってくれ」


再会してからもまだマリナの思いが見えてこない。だがこのまま進めば後戻りはできなくなる。たとえマリナが心変わりしたとしても二度も婚約解消を認めるほど連中は甘くはない。面子を保つために何があってもマリナをアルディ家から逃がさないだろう。
オレの腕の中でマリナが体を固くしたのが伝わってきた。
こんなことを言って怖がらせて、日本へ帰るとでも言われたらオレは君を手放してやれるのだろうか。
審判の時を待っているとマリナの手がオレの腕にそっと触れた。


「羽田に行くまでも行ってからもずっと、今だって……迷っているわ」


覚悟はしてたつもりだが、やはりきつい。
この期に及んで迷いがあるとはな。


「それなら、なぜここまで来たんだ……」


自分では抑えきれないほど感情が高ぶり、思わず声が低くなる。


「好きだからよ」


マリナのこの言葉にオレの脳内が小さなパニックを起こした。


「あ、えっと……あんな別れ方をしたのに、今さらやっぱりあんたが好きだったなんて、のこのこ出てきて言っていいのかなって思ってい……」


「マリナ、マリナ……」


たまらずオレはマリナの言葉を遮り、その体が壊れるほど強く抱きしめた。

 

 

 


つづく