きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

いつかの君を忘れない 26

マリナとの訓練も何とか終え、いよいよ明日は日本へ発つ。なかなか上達しないマリナに根気よく付き合い、これなら何とかなるだろうという段階まで何度も練習した。
マリナ自身に不安が残ったままでは意味がないからだ。
万全の状態で日本に行くと決めていた。


 
緊急時の装備の最終チェックが終わり、部屋に戻るとマリナがソファで眠っていた。
時間をかけ過ぎたか。
待ちきれずに寝てしまったようだ。
マリナが不安にならないような準備と、マリナに何かあった時のために治療に必要な物をすべて準備していたからだ。
マリナを部屋まで運ぶか悩んだが、起こしたら可哀想だと思い、そっと抱き上げてオレの寝室に運んだ。
起こさぬようにふわりと布団を掛けるとマリナは猫のように体を丸めた。
オレのベットに横たわるマリナを見るのは初めてだった。
自分を落ち着かせるように深呼吸をする。
マリナの両親に認めてもらうまでは潔白であろうと決めていた。
サイドボードの引き出しから木箱を取り出した。
マリナの母から預かった物だ。
あの時は遺体の鑑定に使用すると借りたが、本当は再生医療に利用するつもりだった。
オレの生涯をかけてでもマリナを蘇らせる。そんな非道徳的な夢物語をオレは現実にしようとしていた。


「シャルル」


「起こしてしまったか」


振り返るとマリナはスヤスヤと眠ったままだった。
寝言か。
オレの夢を見てくれているのか。
髪を撫で、額にキスを落とした。
オレは木箱を手にリビングへと戻った。
マリナの両親に認められたら、その時は迷わずマリナをオレの物にする。


翌日、朝食を済ませたオレ達はアルディ家のエアポートへ車で向かった。
パリ市の北東に位置する小麦畑に囲まれたそこは、ミシェルと争っていた時にも使ったあの場所だ。
滑走路へ向かう間もマリナの様子に注意を払った。何かあればすぐにでも中止にするつもりだった。
ジェット機はエンジンをかけた状態でオレ達の到着を待っていた。
轟音の中、タラップへとマリナを誘導した。
マリナは緊張しているのか、いつもより口数が少ない。


「大丈夫?」


「う、うん」


どんなに脱出時の装備を整えたとしても事故に遭った恐怖は拭えないはずだ。
やはりオレだけで行くべきか。


「無理してない?」


「怖くないって言ったら嘘になるけど、シャルルが一緒だから大丈夫よ。それよりもシャルルを一人で行かせて、それでもし何かあったら、もしあたしのことを忘れ……」


マリナはそこで言葉を詰まらせた。
記憶を失くしたことに今もマリナは負い目を感じている。
そこまで言うならやはり連れて行く方がいいのかもしれない。


「あ……」


マリナが小さく声を上げた。


「どうした?」


オレの問いには答えず、マリナはオレの手を強く握ってきた。
事故当時のフラッシュバックか。


「マリナ、今ならまだやめられる。ここで無理をする必要はない」


空中を見据えたまま動かないマリナを諭すように優しく語りかけた。
やはり回避行動の類が現れたか。
これは自身の身を守ろうと本人の意思とは関係なく出る防御反応かもしれない。
するとマリナがゆっくりとオレを見上げた。
その目は今にも涙が溢れ出しそうだった。


「マリナ、やはり今日は中止にしよう」


そう声を掛けた途端、マリナはオレの胸に飛び込んできた。


「シャルル!」


つづく