きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

碧色のバカンス10

マリナを連れて行くとなるとジルと二手に分かて動いた方がいいだろう。マリナは熱射病で倒れたばかりだ。病院で点滴を受けたと言っていたから問題はないと思うがあまり無理はさせたくない。
オレはマリナと遺跡へ向かい、ジルにはアドルフと別の件で動いてもらうことにした。
マテカ遺跡へは一時間ほどで着いた。
マリナはオレの横でディナーブュッフェ用にホテルが用意していた料理を少しずつ詰め合わせた特性弁当を食べ終え、すっかり夢の中だ。
今朝から色々あって疲れたのだろう。起こそうか、それともこのまま車で寝かせておこうかと思い倦ねいていると、微睡みながらマリナが目を覚ました。

「あれ、もう着いたの?」

マリナは目をこすりながら辺りをキョロキョロと見ている。
ここマテカ遺跡は島の北部、密林の奥に神殿跡がある。そう大きくはないがマヤ文明を十分に堪能できる。
とは言っても遺跡のすぐ近くまでは車で行くことができる。この辺りもだいぶ道路建設が進んでいるようだ。

「少し様子を見てくるだけだからオレ一人で行って来ようか?」

するとマリナは特製弁当を袋にしまい、ビニール袋の口をギュッと縛って足元に置いた。

「大丈夫よ。あたしも一緒に行く。遺跡も見てみたいし、ガイドはいないけどシャルルなら遺跡のことだって色々知っているんでしょ?」

マリナはオレをスーパーマンか何かだと思っているのか?遺跡のガイドができるほど詳しくはないのだが。そう思った瞬間、マクソンの顔がチラついた。
あいつには負けたくない。

「では行こうか」

ここは2300年前に建造されたもので紀元前2世紀もの昔からスペインの侵略により植民地化される16世紀まで続いたマヤ文明の特色が顕著に現れている遺跡の一つだ。
王族の別邸として使用され、遺跡の中でも規模はそれほど大きなものではない。
実際に入ってみたことはないが、たしか内部には王の寝室、サウナ跡などがあり観光用に広く開放されていたはずだ。
王の間があるのではないかと言われているがこれは未だに発見されていない。
と、遺跡の入り口に向かう10分ほどの間にオレは分かる範囲で遺跡について説明した。だがマリナはオレの話にすぐに飽きたのか途中から何度も欠伸をしていた。
オレはさりげなく話を終わらせ、辺りに視線を配った。
それにしてもブルーホールの人気におされ、遺跡への観光客が激減したとは聞いたことがあるが完全にここにいるのはオレ達だけのようだ。

「シャルル、見えてきたわ!」

神殿が見え始めるとマリナは眠気が飛んだのか駆け出して行った。
ガイドをしろと言ったもののやはり興味はなかったか。ここから先は簡単な説明だけにするか。オレはガイド計画を変更しながらマリナの後を追った。

「ねぇ、入れないみたいよ」

見れば持ち上がり式のマヤアーチの入り口を塞ぐように左右に木製のポールが立てられ、黄色のロープがびっしりと張られている。すぐ横には「Keep Out」と書かれた看板が立っている。あれでは入りようがないな。

半年ほど前に遺跡の一部が破壊され、今も修繕中だったと記憶はしていた。それなのにマクソンはガイドを申し出た。オレはそれを断り、代わりに小切手を出した。金目当てだと思ったからだ。だがマクソンはそれを辞退し、今度は頼みがあると言い出した。
何かあるとは思って話に乗ってみたが、やはり遺跡は今も封鎖されたままだった。

「シャルル、どうするの?これじゃ調べ物ができないわね」

もともとあまり興味はなかったのだろう。マリナは大して困った様子でもなく、遺跡の外観を眺め、それだけで満足しているようだった。
王の別邸だ。入り口は一つではないはずだ。何かあった時のための出口がどこかにあるはずだ。
入り口は東に作られている。古代では太陽を基準にして建物は造られる。
ならば西か?

「マリナ、こっちだ」

いくつもの石を積み重ねて造られた遺跡は一辺が8メートルほどだ。測量してみなければ確かではないがおそらく四角錐になっているのだろう。
周囲を辿るようにオレは歩き出した。入り口のちょうど裏側に回ると遺跡は崩れかけていた。

「シャルル、こっち側は壊れているわよ?!」

「半年ほど前に遺跡の一部が破壊されたと聞いていたが、ひどいな」

外壁がこれだけ損壊しているとなると中も無事ではすまないか。
とにかく入り口を見つけ、中へ入ってみないことには何も分からない。
だが東側のマヤアーチのような入り口らしきものは見当たらない。空を見上げ太陽の位置を確認した。陽はだいぶ西に傾きかけオレとマリナの影が遺跡へと伸びている。やはり方角的には合っている。
だとすれば入り口は別にあるのか?それとも東に一つしかないのか?

「何?この蛇みたいな模様」

辺りを見渡しているとマリナが何かを見つけたようだ。
そこは正確に測られたかのような石段の中で一つだけ他の物よりも大きな石が嵌められていた。
近づいてみると石の中央に蛇の頭が刻まれている。

「でかしたぞ、マリナ。これはマヤ文明の神と信じられていた翼を持った蛇、ククルカンだ」

よく見れば蛇の模様が入った部分は動きそうだ。オレはそれを押してみた。
するとその石は向こう側へとゆっくりと動き始めた。

「何これっ?!」

ひんやりとした風が足元を撫でるように流れ出てきた。目の前には暗闇がぽっかりと口を開け、まるで招かざる者を引きづり込もうとしているようだ。
何だこの違和感……。
この先にはきっと何かある。

「隠し扉だ。行こう、マリナ」





つづく