あたしに近づいて来たってことは最近会った人の中にその人物はいるのよね。
知り合いの顔を順に思い浮かべてみたものの彼女と関係ありそうな人なんてやっぱりいなかった。
「最近、君の周りに現れた人物。そいつは君に近づき、次第に君との間に信頼関係を築いていく。そして言葉巧みにオレと彼女が親密な関係にある事を君に印象づけ、二度と想いは届かないと君に思わせると同時に、君がオレに近づかないように監視していた」
あたしは息を飲んだ。
まさか、でも……。
「その人物はこの一月までメイクアップアーティストを目指してパリに留学していた。
そして映画の撮影現場にたまたま見学に来ていたその人物に彼女は声を掛けたんだ。自分の言う通りにすれば口を聞いてやるとでも言ったんだろう。ああいった閉鎖的空間の中で実力だけで仕事を勝ち取るのは厳しい。
やはり口添えは何よりの近道なはずだ。現場で女優の目に止まるなんてことは奇跡に近い。
その人物はすぐに日本に帰国し、出版社でのアルバイト勤務を始めた」
沙耶さん……?
たしかに最近のイベントは沙耶さんと一緒になることが多かった。
仕事が終わって一緒にご飯を食べに行くこともあったし、飲みに行ったことだって一度や二度じゃない。
それもこれも全部あたしを監視するためだったの?!
あたしだけが沙耶さんに心を許して友達になった気でいたんだ。
「沙耶さんが彼女の手先だったなんて。あたし、友達だと思っていたのに……」
俯くあたしにシャルルは首を振った。
「たしかに有川沙耶の当初の目的は君の監視だった。だが彼女は君と関わるうちに君に心を許し始めていったのはたしかだ。病院で彼女を見かけ、声をかけたんだ。事件の可能性もあるからと病院側に君を面会謝絶にするようにと伝えていたため、彼女は君に会うことはできなかった。だが君を心配して来たのは確かだ。自分が余計なことを話したせいで君に怪我をさせてしまったと気を病んでいたからな。夢のためとはいえ、言われるがままに行動したことを悔やんでるといった感じだった」
たしかに沙耶さんはよくシャルルの話をしていた。あの日もエレベーターで彼女とすれ違った時、彼女からシャルルが使っている香水と同じ香りがするって言っていた。
「それで沙耶さんは今どうしているの?」
シャルルは呆れた顔をしながらも優しい眼差しであたしを見つめた。
「君という人はまったく、人の心配か」
「だって沙耶さんに何かされたわけじゃないし、遠回りはしたけどこうしてシャルルに会えたのもあの事故のおかげでしょ?」
あたしが笑顔でそう言うとシャルルはたまらないといった顔であたしを抱き寄せた。
「そんな君のすべてを愛している。二度と離しはしない。そして全てのものから君を守る。この先もずっとそばにいてくれるね?」
あたしはシャルルの腕の中で何度も頷いた。
つづく