きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

夢から覚めて12


厨房を出て何度か行った事のあるジルの執務室まで二人で並んで歩いていた。


「ジル、一体どういう事なのよ?」

あたしは部屋まで待ちきれずにジルに尋ねた。廊下を歩いてると何人かのメイドさん達とすれ違い、その度に彼女たちは軽く会釈をして行く。

「ジル様が別棟にいらっしゃるなんて珍しいわね。何かあったのかしら?」

通り過ぎてもメイドさん達のお喋りが聞こえてきた。誰に聞かれるかも分からない廊下で迂闊な事は話せないわね。ジルの部屋に着くまで結局あたしは焦れながらも何も聞く事が出来ずに先を急ぐようにしてジルの部屋に向かった。


扉を閉めたと同時にあたしはジルに向き直った。

「さあ、説明してちょうだい。
フィリップの言ってた例の物って何?
一体何をしたの?
ジルはシャルルの味方じゃないのっ?」


するとジルはキッパリと言った。

「私は常にシャルルの味方です。順番にお話し致します。どうぞそちらに座って下さい。」

あたしはソファに座りお茶の用意をして戻ってきたジルは向かい側に座った。
砂時計の最後の一雫が滑り落ちるとポットとカップをトレーから下ろし、慣れた手つきで二つのカップに紅茶を入れていく。甘い香りがあたしの鼻先を掠め、緊張していた体を解すかのようだった。

「マリナさんどうぞ。唇に沁みるかもしれないので少し温めに入れました。」

そうだ。さっきあたしは唇を切ったんだ。ジルはそんな些細な事も忘れずにこうして気遣いが出来る人よ。ジルの優しい笑顔を見ているうちにきっと何かの間違いだと思い始めた。ジルがシャルルを裏切るはずないわ。
カップを口に運ぶと少しだけピリッと痛みが走った。それはまるでジルを疑ったあたしへの罰のようだった。

そしてジルの話を聞いたあたしは自分のしていた事をとても後悔した。
他人を気遣う事が出来るジルを羨ましく思った。あたしは自分の事ばかりだった。

「…近頃では錠剤の使用量も増えているそうなのです。」

ジルは深刻な顔で話し始めた。
シャルルの机の引き出しに入っていたあの錠剤のこと?

「ビタミン剤っていっぱい摂るとよくないの?」

ジルは髪を僅かに揺らして首を振った。

「あれは睡眠 抑制剤です。一般的なものでは無くシャルル自身が製造したものなので効果レベルもどれほどなのか私も完全には把握してませんが大体の構造式は分かっています。」

つまりこれまでも忙しく働いていたシャルルはあたしとの時間を作るために眠らずにいたって事っ?!しかもわざわざ自分でそんな物まで作ったって言うの?

「シャルルは夕食の後も仕事に出かける事が多いため私はある機会を待っていました。その後の予定がなくシャルルが何かを口にするその瞬間を待っていました。」

昨夜はもう仕事はないってシャルルは言ってた。そしてワインに合うものを頼んでいたわ。

「以前からフィリップにはシャルルからの注文があれば私の用意した物を一緒に出すようにと言ってありました。
私はシャルルの錠剤をいわば無効化する成分で抗体を作りました。無効化すれば自然と睡眠へと導かれる予定でした。
それを誤ってマリナさんが口にしてしまいました。錠剤を服用していないマリナさんは一時的に過睡眠がおきますが抗体を作ること無く体外へ排出されているはずですから何も心配はありません。
驚かせてしまって本当に申し訳ありませんでした。
シャルルへの説明は私からさせて下さい。マリナさんはどうか何も聞かなかった事にして下さい。」

ジルは本当にシャルルが心配なんだわ。
まさかシャルルが眠らないでいたなんてあたしは考えてもみなかった。
だけど二人がややこしい薬を作る事になったのも元はと言えばあたしが原因だわ。たぶんあたしがそれを口にしたって知ったらシャルルはジルを責めるかもしれない。だったら…

「ジルは何も言わないで。
あたしがその薬を飲まないようにシャルルに言うわ。そしてちゃんと寝るように話す。それでいいでしょ?」

ジルまで巻き込みたくなかったからあたしは部屋に帰ってから一人で考えた。
そして一つの答えを見つけた。




つづく