朝方、ふと目が覚めた。
昨夜はあたし、シャルルと……。
それにあの後って?
記憶は曖昧だったけどまだ体には感覚が残っている。
隣を見るとシャルルは静かに眠っていた。
寝顔はまるで天使のように綺麗だわ。
シャルルとまた会えたこと、こうして隣にいられる事がまだ信じられない。
突然降って湧いたような佟弥との出会いがまさかシャルルとの再会に繋がるなんて考えてもいなかった。
「早起きだね」
「ごめん、起こしちゃった?」
シャルルは横向きになると、あたしの頭の下に腕を潜らせた。
「いや、目を瞑っていただけだよ」
「あたしのいびき、うるさかった?」
するとシャルルは優しい眼差しであたしを見つめた。
「いや、マリナの寝顔を見ていたんだ。本当に君がオレの隣に存在しているんだと実感していた」
「寝てないの?!」
「マリナがそんな無防備な姿で眠っている隣で寝られるはずがない」
その時、あたしは自分が何も着ていないことを思い出した。
「体、大丈夫?どこも痛くない?」
「うん、平気」
下腹部に少し違和感はあるけど、痛いってほどではない。
「平気って感じではなさそうだな。デリケートな場所だし、傷になってたら大変だから、ちょっと診せて」
診る?!
診察ってこと?!
あたしは慌ててシャルルが体を起こそうとするのを止めた。
「いい、全然大丈夫だから!」
するとクスッとシャルルが笑った。
「ごめん、嘘だよ。傷も出血もなかったから大丈夫。違和感はあるだろうけど時間が経てばそれもなくなると思うよ」
シャルルがお医者さんだってことをすっかり忘れてたわ。
「そういうのは冷静に説明しなくていいから!」
「マリナを大切に思ってるってことだよ。今日は何もしないから昼まではゆっくり寝ているといい」
今日は、ってことは……?!
「明日は?」
「マリナの様子を見てから考える」
「え、診るの?!」
「いや、そうじゃなくて」
その瞬間、シャルルが頬を赤くした。
やだ、照れないでよ。こっちまで恥ずかしくなるじゃない。
あたしはシーツで顔を半分隠した。
「痛みがないようならって意味だよ」
昨夜のことを思い出して、あたしは思わず足を擦り合わせた。
するとシャルルが体を起こしてベットから降りた。ハラハラしながらあたしはその様子を見ていた。
だってあたしが何も着てないってことは……って思ったのよ。
でもシャルルはちゃんと下着を付けていた。
「着替えてくるよ。マリナはシャワーする?」
「シャルルはいいの?」
シャルルの事だから着替える前にシャワーしそうだけど。
「オレは君が寝ている間にしたから大丈夫。一応、綺麗にはしたけど気になるようなら浴びるといい」
その時、あたしは自分が最後に意識を失くしたことを思い出した。
ということは綺麗にしたってシャルルが?だよね。あたしはその様子を想像して頭からシーツをすっぽりと被った。
そんなあたしを見て、シャルルはクスッと笑うと部屋を出て行った。
その隙にあたしはさっとシャワーを浴びた。用意されていたワンピに着替えて部屋に戻った。
「急遽、用意させたんだがよく似合っている」
眩しそうにシャルルはあたしを見て言った。シャルルが選んでくれたんだ。
ちょっとくすぐったい。
「ありがとう。ほら、ぴったり」
あたしはくるっと回ってみせた。
「他に必要な物もあるだろう。外商を呼んでおくから食事が終わったら好きな物を選ぶといい」
「外商?何それ?」
「デパートの商品をここに持ち込ませて、好きな物を選ぶんだ。わざわざ出かけて行くのは面倒だからね。向こうから来てもらうんだ」
「デパートの商品がここに来るってこと?」
「まぁ、簡単に言うとそうだね」
うわ……さすがはシャルル。
デパートの人が家に来るとか異次元だわ。
「ジルを呼んであるから見てもらうといい。君にとても会いたがっていたし、買い物は女性同士の方がいいだろうからね」
「ジルは帰って来てるの?」
たしか、シャルルの代わりにモザンビークに行ったんじゃなかったかしら。
「家の事がひと段落した後、医療チームを結成して現地に送り込んだんだ。その時に彼女は呼び戻した。マリナがパリに来たら庭でランチブュッフェがしたいと言ってたよ。もう少し暖かくなったらカークと子供達も呼んでやろうか」
カーク?!
まさか!
「ジルの結婚相手ってもしかしてカークなの?!」
シャルルはコクリと頷いた。
「そう。娘が二人だ」
「それじゃ、あんたが言ってた娘達へのお土産って、ジルとカークの子供達のだったの?!」
シャルルは驚くあたしに近づき、そっと頬に手をあてた。
「そういうこと。オレは君以外の女性と結婚するつもりはなかったしね。ずっとこのパリから君の幸せを見守っていくつもりだった」
「どれだけ想ってくれてるのよ」
シャルルのどこまでも深い愛が胸に沁みた。
「言っただろう?永遠に君だけを愛するとね。今度こそ、オレがこの手で君を幸せにする」
「シャルル……」
「二度と離さない。君はオレだけのものだ」
そういうとシャルルはあたしをじっと見つめた。
「オレのすべてを君に捧げるよ。マリナ、結婚しよう。これから先の君のすべてをオレにくれないか?」
こんなにも愛してくれるシャルルと幸せになりたいと思った。もう何もいらないとさえ思えた。
あたしの頬に触れているシャルルの手にそっと手を添えた。
「あげるわ。あたしの全部を。遠回りしちゃってごめん。愛してるわ、シャルル」
噛みしめるようにシャルルはあたしの言葉を聞いていた。青灰色の瞳にあたしが映っている。
シャルルはゆっくりと頬を傾けると、優しくキスをした。
「キスだけじゃ、我慢できなくなりそうだ」
それって……。
慌てるあたしをシャルルはさっと抱え上げた。
「もう一度、寝室へ逆戻りだ。幸せすぎておかしくなりそうだ」
「ちょっ……待って、シャルル」
「いや、待てないよ」
fin