きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

la douce pluie 29

私はミシェルに手を引かれ扉へと向かっていた。ミシェルはまるで近くへ散歩に行くかのようなそんな感じだった。
その場の勢いで一緒に行くと言ったもののシャルルと別れるなんて私には出来ない。そんなのは絶対にイヤだ。だから私はここでミシェルの強制移送を絶対に止めさせるしかない。


私が立ち止まりジルに向き直った時、ジルは内線電話に手を伸ばしているところだった。


「ミシェルとの事、もう一度考え…」


私が口を開くのとジルが受話器に向かって話し出すのが同時だった。ジルは視線だけ私に向けたけどそのまま電話を続けた。


「ジルです。すぐに警備を私の部屋へ。ミシェル・ドゥ・アルディを地下の特別室へ連行するように伝えて下さい。そのまま明日、強制移送します。」


受話器を置いたジルは冷やかな表情を浮かべてミシェルを見ていた。


「マリナさんの手を離しなさい。
孤島へ行くのはあなた一人だけです。やっとシャルルと良い関係を築き始めたというのに残念でなりません。
なぜマリナさんに執着するのです。
シャルルと同じ女性を求める理由は何ですか?!貴方はシャルルの落とす影に自ら飛び込んでいるだけなのではありませんか?!シャルルの存在は貴方にとってそれほど…」


「違うっ!!
シャルルの存在は今回の事と無関係だ。
もう拘ってなどない。アイツの影もオレは知ったからな。光の中に存在しながら結局は望むものは手に出来ないまま成長してきたのを知った。
地位や名誉、身分など今のオレは興味などない。マリナの事は単に困っているのを見かけて少しばかり手を貸してやっただけだ。だが孤島は退屈だからな。退散させてもらう。」



ミシェルは悲しげな色を瞳に映すと身を翻して扉へと走り出し、あっと思った時にはドアを乱暴に開けて外へと飛び出していってしまった。
困っていた私の力になってくれたミシェル。孤島が退屈だと言ったのは本当は嘘だと思う。私に一緒に来て欲しいと心から望んでいたんだと思った。
だけど残された私の心の負担にならないようにあんな風に言ってくれたんだ。
私はミシェルを放っておけなかった。


「ミシェルっ!待って、どこに行くのよっ!」


私は叫びながらミシェルの後を追って廊下を走った。


「私です。ミシェルが逃走を図りました。今すぐに捕らえるのです。」

後ろでジルの声が聞こえてきた。警備に電話しているようだった。











廊下の角を曲がって階段へと走っていくミシェルは玄関ホールへ向かっているんだわ。
このままアルディ家を出るつもりなんだ。一階まで降りていくと玄関を出ていく後ろ姿が辛うじて見えた。
今、ミシェルを見失ったら二度と会えなくなる。ずっと上手くやっていたのにこんな形でアルディ家を出て行かせる訳にはいかない。
私は生まれてからこんなに真剣に走った事はないんじゃないかと思えるほど走り続けて小さくなっていくミシェルの後ろ姿を必死で追いかけた。
このまま行って門から出るつもりなんだわ。もうほとんどミシェルの姿は見えなかった。敷地内はいくつか別れ道があるけどここから一番近い門扉までの道は一つ。敷地から出てしまったら探しようがないわ。だけどどうにも息が苦しくなってきて私は足を止めた。私は膝に手をついて肩で激しく息をした。心臓はバクバクしているし喉はカラカラで張り付きそうだった。
足元にポタッポタッと何かが落ちてアスファルトに小さな模様を描き始めた。


雨……。


地面にいくつもの雨粒が舞い降り、私の体の熱を奪うように次々と私に向かってくる。ミシェルはもう門扉を出てしまったと思った。
突然の別れだった。
私がシャルルに打ち明ける勇気があればこんな事にはならなかったはずよ。
生まれてすぐにキューバへと送られたミシェルが再びアルディ家へと呼ばれ、ママンの死と共に再びパリから追われた。
大人の都合で連れまわされ、普通の子供として暮らすことを許されなかったミシェルに今度は自分から出て行かなければいけない状況に追い込んでしまったのは私だった。
ミシェルはどんな気持ちで門扉をくぐっていったんだろう…。
私に関わらなかったら今でも普通の毎日を送ることが出来ていたはずよ。
マルクのこと、相談なんてするんじゃなかった。
肩を濡らし始めた雨はしだいに強くなり私はまるで神様から罰を受けているようなそんな気持ちになっていた。






つづく