きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

la douce pluie 42

紫檀無垢の重厚な柱時計がオレを急き立てるかのように鳴り響き、朝の訪れを知らせる。ミシェルのした事は許せない。今すぐにでもコイツを孤島に送致し二度とパリに戻れなくする事は簡単だ。
だがマリナは納得しないだろう。
オレに秘密を持ち、混乱を招いた原因が自分にもあると思うはずだ。
さてどうするか…。



オレの視界をゆっくりと横切るようにしてミシェルは本棚へと歩み寄ると手にしていた本を元に戻した。絵本は長い時間を過ごしてきたその場所へ返され安堵してるかのようにさえ見えた。そんな絵本の背表紙を細く長い指先でなぞるようにミシェルはママンとの思い出を胸にしまい込んでいるようだった。


「わざとこの部屋を使ったのか?」


「そうだ。」

ミシェルは両手の平を上に向けて肩の高さに上げると降参とでも言ったポーズを見せた。
アルディ家の当主争いをしたあの頃とは違う。オレ達は共にマリナを大切に思っている。


「フラッシュバックか?」

ミシェルは片手で目を覆いながら小さく頷いた。幼少期を閉鎖されたこの空間で過ごしたミシェルを再び同じ状況におけば少なからず何らかの症状が現れるはずだ。

「ひどい頭痛だ…。」

フラッシュバックを起こす時、右脳は興奮状態になる一方で記憶処理を行う左脳の活動は著しく低下する。脳の活動はアンバランスとなり体に異変が起きる。
一度表に出た症状は治療を受けない限り頭痛やめまいは収まらない。


これがオレからの制裁だ。


「治療してやってもいい。ただし条件付きだ。」



******************


シャルルは壁にもたれかかり少し呆れたような顔をしながら話し出した。


「ミシェルが何のアテもなく出て行ったと思うかい?」


シャルルはミシェルのこれまでの行動の全てを教えてくれた。私はただ驚くばかりだった。アルディ家に現れたマルクと手を組んでいた事やジルの前でわざと姿を見せた事も全部、自分を孤島へ移送させるためだったなんて…。
だけど分からないのはどうして孤島に行きたかったのかってことよ。何も孤島じゃなくたって行こうと思えば何処にでも行けるはずよ。どうしてこんな回りくどい事をしたんだろう。


「ミシェルはどうしてそんな事をしたの?」




「オレから君を奪うつもりだったんだ。
オレとの間に秘密を持った君に親切なフリをしてまんまと君を罠に掛けた。二人で孤島に行くように誘導したんだ。
オレはたとえ孤島へ君が行ってしまっても連れ戻すつもりでいた。
それ自体は何の問題もない。
だが一瞬でもミシェルと行くことを決めた君が素直にパリに戻るとは限らない。オレへの秘密を持ってしまった君が背徳感からオレの元には戻れないと考えるかもしれない。オレは君を失うところだった。」


シャルルは私に近づくとその胸にきつく抱き寄せた。
シャルルの不安がひしひしと伝わってきて私はこれまでの自分の行動を後悔するばかりだった。


「何があっても離さない。」


シャルルはそっと体を離して私を愛おしそうに見つめる。

「マリナ…オレに二度と秘密はなしだ。いいね?」


そう言うとシャルルは頬を傾けて私に口づけをした。甘く切なさの入り混じったキスは私の罪を消していく。



「これは誓いのキスだ。」



つづく

******************

みなさん、こんにちは!
ここまで読んでくださってありがとうございます
お話の中に出てくるミシェルの症状や引き起こす状況などはあくまでも私の妄想の中だけの想像の話です。