きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

la douce pluie 52


本邸へと歩き出そうとしたシャルルの背中に向かってミシェルはからかうように言った。


「警備まで引き連れてずいぶんと派手な出迎えだな。」

振り返るシャルルにつられて私も振り返った。ミシェルの好戦的な口調にシャルルの鋭い視線が向けられる。悪びれる様子もなくミシェルもまたシャルルを真っ直ぐに見据えている。




「この辺りには立ち入るなと言ったはずだ。治す気がないならそう言え。」



治すって…ミシェルはどこか悪いの?!
それでミシェルを孤島送りにしなかったってこと?ここでシャルルの治療を受けているんだわ。こんな風に出歩いたりしてていいの?
胸の中にモヤモヤとした黒い雲が広がっていくような不安が私を襲う。


「治すってどういう事?!
ミシェルは病気なの?!シャルル、あんたなら治せるのよねっ?!
こんな所で雨に濡れてる場合じゃないわよ!さっさと戻らなきゃ!ミシェル、あんた一人で歩けるの?!」

ミシェルは参ったといった表情を見せた。だけどどこか満足そうな笑みを浮かべると私の頭をポンポンと撫でた。


「おいおい、年寄り扱いは勘弁だ。マリナの想像しているような病気ではないから心配はいらないよ。オレの主治医があれこれと細かいだけだよ。」


シャルルはミシェルが私に触れたのが気に入らないと言わんばかりに私の肩を自分の方へと抱き寄せてミシェルを睨んだ。


心因性ストレス障害だ。幼少期に閉鎖的空間に置かれていたのが原因さ。
アメリカの実験施設バイオスフィラでも同じような事が原因だと証明されている。
長期間閉鎖空間に置かれると強度のストレスがかかり目眩や頭痛や攻撃的な一面が現れる。宇宙空間に人口施設を計画していたが二年間の実験の末、計画は中止されている。ミシェルもアルディの地下室で同じような体験したから発症するのは当たり前だがな。」


ミシェルは頷きシャルルに視線を向けると悔しそうに言った。


「そこまで分かっていながらあの日、オレを地下室に入れるとはさすがは冷酷な兄だよ。」


シャルルは当たり前だと言った感じで答えた。


「マリナを連れ出そうとするからだ。
やられたらやり返すのがアルディ家の家訓だからな。この辺りはバラ園も近い。
あの頃の記憶を蘇らせるにはまだ時間が必要だ。これ以上症状を悪化させたくなければマリナに不用意に近付いたりせずに大人しく本邸にいることだな。」


ミシェルは両手を広げて仕方がないといったように肩を竦める仕草を見せた。


「任されていた仕事が一段落したからお前を探していたんだ。その時マリナが雨の中をウロウロしているのを見つけたまでだ。同じ敷地内にいれば偶発的遭遇は仕方ない。それよりも当主代行をさっさと返上させてもらう。もうバカンスも終わっただろう。」

それで普段は忙しいシャルルが私とモルディブへ行ったのね。
だけどこの辺りに近づくなってどういうことかしら?


「ねぇシャルル、ミシェルがバラ園に近づくのがどうしてダメなの?綺麗な花を見ることがダメなんて変なの。」


私が首を傾げているとシャルルはミシェルの話題は面倒くさいとでも言いたげな顔をした。


「ミシェルは誰にも見られない夜に一度だけママンに連れられてバラ園を散歩をしたらしい。その頃の記憶がフラッシュバックを引き起こしたんだろう。
催眠療法の妨げになるから近づくなと言ってあったんだ。その事もあってGPSまで付けさせておいたんだ。」



「ミシェルまでGPSを付けて歩いてるの?!」


私の驚きとは正反対にシャルルは至って冷静に言った。


「当然。ミシェルは孤島に行かせるつもりだったが病人を行かせるわけにも行かないからね。それに…」


シャルルはそこまで言うとミシェルに目をやり、そして私に優しく語りかけた。


「オレ達はマリナを大切に思っている。
何よりもまず君の事を考えてオレはミシェルをここに残すことに決めた。
なぜならマリナはオレ達が共に暮らす事を望んでいるからだ。
その条件としてGPSを付けさせた。不用意に君とミシェルが二人きりになる事は避けてもらう。あんな事は二度とさせやしない。そして今回の不祥事の代償として数日間オレの代わりを務めてもらった。」



黙って聞いていたミシェルが私の頭をそっと撫でる。

「オレもマリナを大切に思っている。だから君と孤島へ行く夢を見たくなった。
だが…オレたちのどちらも大切に思っていたはずのママンと同じ思いはさせたくなかった。どちらかを選ばせるような事をして悪かった。君にママンのような思いはさせたくないと思い直したんだ。
だからあの日、君を置いて行った。
オレはこれからもここに残りアルディの仕事を続けていくつもりだ。」

そうだわ。あの日ジルとの話の中で私はミシェルと孤島へ行くと言った。
だけどシャルルと会えなくなるなんて出来ないと思っていた。どうしていいか分からないうちにミシェルは一人で逃げ出して行ったんだった。
きっとあの時の私と哀しそうなママンの姿がミシェルには重なって見えたのかもしれない。

「あの日マリナの中にママンを見た気がすると言ったミシェルにオレは条件を出して今回の事は目をつぶることにしたんだ。」


差し向けられる二つの傘の向こうに優しい雨が降り続いている。
私はこんなに二人に大切にしてもらっているんだと思うと涙が止まらなかった。
そっと頬を伝う涙をシャルルが細長い指で拭ってくれる。そして真っ白なハンカチをそっとミシェルは差し出してくれた。

天使の笑顔を浮かべる双子を二度と争いに巻き込まないと私は心に誓った。




FIN


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みなさん、こんばんは!
いつも読んで下さるみなさんのおかげで無事に完結することが出来ました。
ナイスポチやコメントを下さった方々、本当にありがとうございました

このla douce pluie はフランス語で「優しい雨」と言う意味です。
あれこれと問題は起きましたが最後にこの三人に優しい雨を降らせようと思って書き始めたものです。
短編の予定が気付けば52話とずいぶんと長くなってしまいました
シャルルとミシェルの出した結論はいかがでしたか?

このところ更新が遅く最後までお付き合い下さった方々に本当に感謝してます。
新しい妄想が出来たらまた更新したいと思います。お時間がありましたらまた遊びに来てください