きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

la douce pluie 30

私は雨に打たれながら私と同じようにきっとこの雨に濡れているミシェルの事を考えていた。
ミシェルは何も持たずに出て行ってしまった。もちろんお金も傘も何もないはずだわ。

シャルルと逃亡したあの頃、私達も今のミシェルみたいに何も持たずにアルディ家を飛び出した。でも二人だったし、頼れる人がいた。
ミシェルにはそんな人がいるんだろうか。今ごろどうしているのかと考えただけで胸が苦しくなる。
悲しみが胸の奥底から込み上げてきて私は涙を流さずにはいられなかった。
この雨に打たれているミシェルは何を思っているのだろう。
ミシェルだって冷たい雨に濡らされる事なんて一度もない生活をずっと送ってきたはずよ。たとえアルディ家から養子に出されたとしても一般家庭で育った私とは違うはずだわ。
突然降り出した雨に打たれて走って家に帰るなんて経験したことないはずよ。


頬を伝う涙が私の胸の痛みにしみていくようだった。
ブラウスもスカートもすっかり水分を含んで鬱陶しいぐらいに体にまとわりつく。同じ雨の中にいるミシェルはこの煩わしさに何を思っているんだろう。




走った息苦しさとは別の胸の苦しさを私は感じ始めていた。
落ち着かないとダメだ。
こんな場所で過呼吸になったらどうしていいのか分からない。
だけど気持ちは焦るばかりで私はパニックになりかけていた。あたりを見渡しても人影はない。
どうしよう…。


その時、一台の車がこっちに向かって走って来た。
私の前で止まると後部座席から白金色の髪を乱してシャルルが飛び出してきた。



「マリナ、何をしているんだっ?!」


その力強い腕に抱き寄せられて私はすぐ近くに逞しい胸を感じながら懐かしい香りに包まれていた。
シャルルがどうして…?


「私、…ごめ……さい。」



すぐに私の様子がおかしい事に気付いてシャルルの瞳に緊張が走る。


「喋らなくていい。落ち着いて、ゆっくりと息をするんだ。もう何も心配ないから安心して。」


私の背中をさすりながら優しく髪を撫でてくれる。
シャルルがそばに居てくれてるって思うだけで私は落ち着いてきた。
私が安心出来る場所はやっぱりここなんだと思えた。この場所から離れるなんて出来ないし、したくない。

ミシェルの事はシャルルにお願いして何とか孤島に行かずに済むように頼もうって思ったの。最初から全部シャルルに相談していれば良かったんだ。
私はシャルルの腕の中から顔を上げた。


「シャルル、あの…ミシェルが出て行っちゃったの…全部私の…」


私がそう言いかけた瞬間、シャルルの瞳に激しい光りが走った。だけどすぐにそれは抑え込まれ、いつものシャルルに戻っていた。今のは一体何っ…?
シャルルは上着を脱ぐと私に羽織らせながら言った。


「あぁ、わかってる。とにかく屋敷に戻ろう。このままここで話してたら君に風邪を引かせてしまう。話は後にしよう。歩けるか?」


私が頷くとシャルルは私の頬に手をあてて呟いた。




「やっと捕まえた…。」



私を見つめる青灰色の瞳が揺らめき私は目を反らすことが出来なかった。愛おしさが溢れ出し私を包み込んでいく。
シャルルの温もりを感じながら私はふと空を仰いだ。
二人の上に降り注ぐ雨粒はいつの間にか優しい雨に変わっていた。








つづく