きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

la douce pluie 40

マリナが眠ったのを見届けてオレはミシェルとの決着をつけるためにヤツの元へと向かった。
地下の特別室はかつてミシェルが使っていた部屋だ。母と共にアルディ家へと連れて来られたミシェルがその身を隠され生活していた部屋だ。
当時この部屋は扉もなく母の部屋からしか出入りは出来ない構造だった。その存在は父と一部の限られた人間しか知らされてなかった。
父も亡くなりオレは母の部屋からのみ行き来できる構造だったこの部屋を改装し
地下に扉を作らせておいた。
この様な形でここを使う事になるとは思っていなかったが…。
銀の鍵を差し込み封印を解くかのようにオレは扉を開けた。


部屋に入ると大きめの机が目を引く。
パソコンが置かれてあり、これだけがミシェルの唯一の友人であったのは明らかだった。オレがこの部屋に入るのはこれで二度目だ。当主争いによってミシェルの存在を目の当たりにし、幼い頃に感じていた違和感がこの部屋であると知った。ミシェルの失脚によりパリに戻ったオレは真っ先にこの部屋へ足を踏み入れた。
ママンとミシェルの部屋は優しさと哀しみを纏いオレを迎え入れた。

壁一面に設置されている本棚の前にミシェルがいた。オレは扉を後ろ手で閉めながら声を掛けた。


「ミシェル、色々とやってくれたな。」


本を手にしていたミシェルは振り返ってオレに向き直った。
白金色の髪、青灰色の瞳、何もかも自分でさえ鏡を見ているかのようなその存在に苛立ちを覚える。
この部屋でこうして二人が向き合う日が来るとは誰も思ってもいなかっただろう。ミシェルは手にしていた本に視線を落とした。


「オレは昔、この本がとても気に入っていた。」


それはママンが読んでくれた絵本だった。『幸福の王子』幼い頃のオレはそれをママンの傍らで読み聞かせてもらうのが好きだった。
ミシェルにも同じようにしていたんだろう。この部屋で過ごしていたミシェルはオレよりもきっとママンと長く過ごしていたはずだ。ママンがこの世で一番愛したのはミシェルだ。



「マリナは一人きりだ。絵本のようにそれぞれが大切にする事はできない。
そして、オレに譲る気は全くない。」


オレと全く同じ色をした青に近い灰色の瞳がギラリと光りオレを見据えた。


「マリナは一人きりだ。
だからお前から奪うつもりだった。彼女はオレにとって宿命の人だったんだ。」


「ふざけるなっ!」


烈火が体中を駆け巡りオレを焼き尽くすほどの怒りで体が震えた。
マリナだけは何があっても渡さない!
だが相手はミシェルだ。今この場で決着をつけなければ再び何か仕掛けてくるはずだ。奪われた執着はその人間の想像以上の力と成り得るからだ。
そしてまさにミシェルもアルディの血を濃く受け継いでいる。オレがそうであるように。


「マリナはオレと一緒に孤島に行くと言ったぜ。」


それは違う。マリナはミシェルの罠にかかっただけだ。彼女の優しさを利用し、彼女の真っ直ぐな正義感にミシェルは確信的な掛けをしたんだ。


「残念だが、それは同情からだ。
孤島に行きたいならいつでも送ってやる!ただし、お前一人だけだっ!」

いつになく熱くなるオレとどこまでも平静を装っているかのようなミシェル。
まさに両極にあった。
ミシェルはフッと自嘲的に笑みを浮かべた。

「そうだとしてもマリナはオレを選んだのは事実だ。どんな理由があったとしてもだ。何の感情も存在しなければ孤島に付いて行こうなどと思わないはずだ。少なからずマリナはオレに好意を持ち始めている。」



「勝手な事を言うな!」


抑えていた怒りがオレの体から迸り、ミシェルの胸ぐらを掴み上げていた。
マリナは自分に親切にしてくれたミシェルを一人で孤島に追いやるような事は出来ない子だ。
ジルが強制移送を発動したのもミシェルの誘導だ。ミシェルはわざとマリナと親密さを演出し自らを孤島へ送るように仕向けたんだ。
ジルはあの電話の時にオレに全てを話していなかった。ブリスにマークさせていたマルクの件もいつの間にかジルに引き継がれていた。
ブリスが自己判断でオレの任を解くことは不可能だ。つまりジルが動いたという事だ。ジルはマリナとミシェルのキスを知り、オレが気付かぬうちに全ての事を
済ませようと考えたはずだ。焦りは判断を鈍らせる。
そこまでミシェルは読んだのかっ…。


「熱くなるなよ。」


オレの右手を振り払ってシャツの襟を整えながらミシェルはオレとの距離をとりながらそう言った。

「ジルを利用したのかっ?」

「まあね。マリナに適当な理由をつけて部屋に入り込みジルの視界に入る位置に立ったり、これはオレとマリナの問題だとオレが言ったらジルはオレの思った通りオレを叱咤した。写真をお前に見せていなかったのは計算外だったがな。
お前とマリナの間に秘密を持たせるのが目的だった。二人はすれ違い、マリナとオレが共に孤島へ送られれば計画通りだった。思った通りあの日、お前はオレに嫉妬し彼女を傷つけた。」




ジルから電話で報告を受けた時、オレはあの日マリナからミシェルの香りがした事を思い出していた。ジルは何かを隠している。動物病院でのマルクの態度に不審を感じたオレはすぐに調査のためシリルを呼び寄せていた。電話を終えるとその足で別邸に暮らすシリルの元へと向かった。そして二人のキスを知った。
そして嫉妬からマリナを強引に抱こうとしたのは事実だ。
あの時、ミシェルはマリナの両手を押さえつけていた。マリナはミシェルにオレに似ていると言って怒らせたからだと言っていたがそうではない。
おそらくあの時、ミシェルはオレに嫉妬していたんだ。その思いをマリナにぶつけようとしたんだ。
成長過程の相違はあるにせよ元は同じ受精卵が分裂を繰り返していく過程でオレ達は別々の人間としてこの世に生を受けた。だが根本は一緒なのだと思い知らされる。
マリナを傷つけたミシェルをこのオレが責められるのか…。








つづく


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みなさん、こんばんは!
最後まで読んでくれてありがとうございます
一週間空けずに更新する事ができましたいいとも増刊号にならずに済んだ

シャルルとミシェルの対決はもう少し続きます。実はミシェルはあれこれとしていたんです(-。-;
マリナちゃんは一人なのに…。