ミシェルが獣医の言葉を口にする。
「恐らくこの子は気管虚脱です。レントゲン等で確認しなければはっきりとした事は言えませんが、親兄弟に同じ病気があるか分からないか?…だってさ。」
獣医に向き直りフランス語でサラサラと何かを言うと獣医は鞄から薬を出して
ミシェルに渡すと何かを言って帰っていった。
「とりあえず気管拡張剤と鎮咳剤を飲ませて様子を見るように。それから落ち着いたら病院に連れてきた方がはっきりとした事が分かるってさ。コイツ遺伝なのかもしれないな。」
私はその病気がどんな物なのか、ティナは大丈夫なのか心配で仕方なかった。
ただの風邪じゃないってことよね?
「ペットショップに問い合わせしてみれば何か分かるだろう。あの時のメモ、捨てなければコイツの弟の方にも聞けたけどな。」
あっ…メモ捨てろってミシェルに言われたんだったわ。今さら持ってるとは言えずに私は後でこっそりと掛けてみようと思った。彼が日本語が話せて良かった。
「ペットショップにはオレから聞いておく。あとでまた連絡するよ。」
貰った薬をさっそくティナにあげてみた。食欲がなかったから薬はご飯じゃなくて大好きなチーズの中に入れてあげたの。錠剤だけど気付かないでパクッと食べちゃったわ。
我ながら良い作戦だったわね。しばらくすると薬が効いて来たのか、咳も止まりスヤスヤとティナは眠り始めた。
これで一安心ね。
私は寝室を出て隠しておいたメモを取り出して改めて眺めた。
【Marc 】って書かれてるけどこれ名前よね…。何て読むのかな、マーク?
名前なんてどうにかなるわよね!電話は携帯ナンバーだし本人が出るはずよね。
プルップルッ…
私は呼び出し音に妙に緊張してしまう。
3コール目で男の人が出た。
「Allo…&☆○%」
うわっ…フランス語だわ。
とにかく喋るしかないわっ!
「ア、アロー!私はマリナ。
あの~あんたはマーク?
この前、犬…えっとlechienって言うんだっけ?とにかくペットショップで双子の子を買ったマリナよ!覚えてる?!」
私はまくし立てるように話していたら受話器の向こうからクスッと笑う声が聞こえてきた。
「やあ、マリナ!日本語で構わないよ。
ちょっと惜しいけどオレはマルク。電話をくれてありがとう。実は君と一緒にいた彼が不機嫌そうだったから掛かって来ないと思っていたんだ。
それでどうした?そっちの子は元気にしてる?」
それから私はティナの様子を話してマルクの家に貰われていった弟のマックスには似たような症状がないか聞いたりしたの。そしたらマックスは興奮して吠えたりしてる時に咳き込む事が前にあったと言っていた。
でもそれも2回しかないし普段はよく食べてよく寝る良い子でティナと同じだったわ。妹さんはとても喜んでくれたと言っていた。確か妹さんのために買いに来たと話してたわね。
せっかく連絡も取れたし近いうちにティナとマックスを会わせようって話になって電話を切った。
やっぱり遺伝なのかしらね。
でもマックスの事が分かっても誰にも話せないって事に私は気付いてガックリした。あとはペットショップで何か分かるといいんだけどな。
それよりレントゲン撮ってもらった方が安心よね。シャルルの時間がある時に連れて行ってもらおうかな。
その日の夕食の時にミシェルからペットショップでは親の血統は分かるけど遺伝病については分からなかったと教えてもらった。思い切ってマルクの事を話そうか悩んだけど結局出来ないままだった。
つづく