はじめに…この創作は【心をこめて】の世界観で話が進みます。
まだお読みになってなくても大丈夫かと思いますがマリナ、シャルル、ミシェルはアルディ家で暮らしてる設定です。
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ティナが生まれてから今日で半年になる。ショップで出会った時は生後2カ月で体重もまだ600グラムしかなかったけど今では2倍程に成長したの。
本当によく食べてよく寝る子なの。
ポメラニアンは1歳を迎える頃の体型が1番理想でその後はあまり大きくなったり
しないってシャルルが言ってたわ。
最近はティナに1人寝をさせているの。
夜は《おやすみ》の言葉が合図になって
ティナは自分のベットで丸まって眠れるように成長したの。
私はもちろんシャルルの部屋で朝を迎えるわ。
今朝もティナにおはようって言いながら部屋に戻ると普段は迎えに来るはずのティナがベットで丸まっていた。
ご飯は残っているし、空咳が出ている。
風邪ひいちゃった?!
私は慌ててシャルルの部屋に戻ってティナの様子を話した。
「動物は専門外だからはっきりとした事は分からないが風邪とは限らない。呼吸器系に問題があるかもしれない。獣医を呼んでおくから待つんだよ。
残念ながらオレはこれから仕事で出る。何か困ったらミシェルに話すといい。アイツなら力になれるはずだ。」
私の頭をポンポンと撫でて覗き込む瞳は大丈夫だからと勇気付けてくれるようだった。
「シャルル、獣医が来てくれるなら安心だわ。ありがとう。私、ティナを置いてきちゃったから戻るねっ!」
慌ただしくシャルルの部屋を後にした。
長い廊下を走っていく私をメイドさん達が驚いた様子で振り返って見ていた。
長く続くアルディ家の歴史の中でも廊下を走る女性などいるはずもなかったのかもしれないわね。
1時間ほどして獣医が到着したとメイドさんが部屋まで連れてきてくれた。
すぐにティナの診察が始まった。
獣医は30歳代半ばの優しい目をした男の人だった。動物好きな人に悪い人はいないってよく言ったものね。
一緒に来ていた助手の人がティナを押さえている間に手早く診察をしていく。
聴診器をあてて胸の辺りを注意深く診ているんだけど、さすがにこの2人は日本語を話してくれる事もなくて私にはさっぱりちんぷんかんぷんだった。
食欲がなくて元気もなくて風邪ひいたのかしら?ってフランス語で何て言うの?ってメイドさんに聞くと☆△○×%だったのよ。やっぱり無理ね。
そう、何を言ってるかさっぱりなのよ。
仕方なくメイドさんにお願いして通訳してもらいながら獣医と会話をするんだけど、このまどろっこしさと言ったらないわよ。
私が日本語を話してメイドさんがフランス語に通訳して獣医に話して、帰ってきた答えをフランス語から日本語に通訳して…ってやっているのが本当に大変だった。
「同時通訳でお願いできないかしら?」
思わず私がメイドさんに尋ねてみたけど彼女は困った顔をしてしまった。
「申し訳ございません。さすがにそのような高度な事はシャルル様のような方でなければお出来にならないかと思います。」
恐縮しながらメイドさんが言った。
「オレがしてやるよ。」
振り返るとミシェルが歩きながらこっちへ向かって来るところだった。
「助かるわ、ミシェル。あんたが居てくれたら話が早いわ。」
獣医と私の会話をスムーズに同時通訳しながらティナの様子を伝えてくれた。私とは違って日仏語を分けて捉えていないから訳するって感覚ではないってミシェルは言っていた。
「あんたの脳内が特殊なだけよ。」
「君もある意味特殊だけどね。これだけパリにいながらフランス語を話せないんだもんな。」
うるさいわねっ!
仕方ないじゃない、ここの人たち全員が日本語を話せるんだもの。
まるで日本にいるみたいなのよって私が言うと、
「それなら明日から屋敷内での日本語使用を禁止にしてみるか?」
青くなる私を見てミシェルは笑っていた。こんな風に笑い合える日が来るなんてあの頃は想像もしてなかった。
一時はマルグリット島に幽閉されていたけど、その後シャルルに呼び戻されてミシェルはシャルルと一緒にアルディ家の仕事をするようになっていたの。
相手もまた苦しんできた事を知ったんだわ。自分も相手の光であり影でもあったと知った。どちらか一方が光でなく影でもない。お互いが光と影になっていたの。2人が良い関係になれて本当に良かったと心から思った。
獣医が診察結果を話すのと同時にミシェルが言葉を口にした。
「詳しく調べてみないとはっきりとした事は言えないが恐らくこの子は…。」
つづく