きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

愛はそこにある…je crois 25

「おいっマリナ!いつまで寝ているつもりだ?寝正月にもほどがある!
ほら、着替えて出掛けるぞ。」

薫の怒鳴り声で今年が始まった。
良いことがありそうには思えないわ。
シャルルがパリに帰った日に薫に全てを打ち明けた。
私は枯れてスカスカになった心まで薫に曝け出し、もう泣けないと言うほど泣いた。あの日からずるずると薫の家にお邪魔したまま正月を迎えていた。

「出掛けるってどこに行くの?」

私はベットから身体を起こすとナイトテーブルの上に置いたメガネを手に取った。

「おまえさんも日本人だろ?正月に行くとこと言えば初詣に決まってるだろ?
さあ、早く支度してくれ。それともあたしとベットでイチャつくかい?」


ニヤッとこっちを見る薫が妖しすぎる。
こんなムードを朝から出されたらこっちの心臓がもたないわ。
そりゃドキドキしすぎて…なんて絶対に薫には言えない。でももし薫が男で、もし本当に付き合っていたら毎日ドキドキしすぎて息苦しそうだわって私は1人で想像してゼイゼイしてしまった。


「マリナちゃん、もしかして何か期待してたかい?寂しいなら寂しいって口に出して言えばいい。お望みならいつでも相手してやるぜ。」

薫はベットの上に腰掛け私の肩に腕を回して甘く囁いた。

薫のペースにさせていたらダメだわ。傷心の私を温かく包み込み、こうして一緒にいてくれる薫にもしかしたらフラフラ~って靡いてしまうかもしれないじゃないっ!禁断の扉を開けるわけにはいかないわ!

兄上を愛し、親友と恋に落ちる…
いや、そんな事はさせられない。
ここは断固として私が扉を開けさせないわよ!

「おいおい、鼻息が荒いぞ。
どうした、サルみたいな顔して。そんなんじゃ相手してやれないぞ。」

サルってなによっ!
人が一生懸命にあんたとの事を考えていたっていうのに!
私が膨れっ面でいると薫は笑いながら、ご馳走があるよって教えてくれた。
私はベットから飛び起きると急いで支度をしてダイニングへと向かった。

あの日からこんな風に薫と過ごしているおかげでシャルルとの事も少しだけ考えずにいられた。
きっとあのアパートに1人でいたら今頃シャルルの事ばかり考えて地の底まで沈み込んでいるはずよ。
薫の悪ふざけさえ有難く思えた。



ふとシャルルに渡された携帯を手に取ってみた。画面には着信ありの文字がある。昨夜シャルルが電話をくれていたんだわ。震える手で携帯を操作した。
履歴にはシャルルの名前が3回も残されていた。
携帯を握る手に力が入る。
いつでも持ち歩くように言われたわね…
画面をタッチしていると、





メッセージが残されているっ!!

シャルルだわ!
はやる思いで私は画面をタッチした。



だけどシャルルの声は聞くことは出来なかった。私はクレールの言葉を思い出していた。

「アルディ家との連絡は一切取れなくなります。」

こういう事なのね。
この携帯ももう繋がらないようにされちゃったのね。
貰ってから初めてシャルルの名前をタッチしてみるけど、呼び出し音は鳴らない。ツーっと鳴るばかりだった。
こうなる事は分かっていた。だけど目の前に現実を突き付けられると胸が痛んだ。今はまだ里帰りしている気分でいるのかもしれない。
そして徐々に現実として受け止めていかなければいけないんだ。



響谷家のシェフが作った豪華洋風おせち三段重は彩りも美しく飾られ、子供の頃に私の母が作っていた和風おせち料理とはイメージが違っていた。
お正月と言うことで朝から少しだけワインを頂きながらお腹いっばいご馳走になったところで初詣へと行った。



たくさんの人で賑わっていて車で近くまで行き、そこからは2人で歩いて行った。大國魂大神と言って薫の家からとても近い場所だった。


「ここは武蔵の国の守り神として祀った神社で、出雲の大国主大神と同神なんだ。
武蔵の国を開きみんなにまじないの術も授けたとされている。俗に福神または縁結びの神として知られていて、東京大神宮、靖国神社日枝神社明治神宮と並ぶ東京五社の1つだ。」

薫も意外と物知りで説明してくれるんだけど、どうも私は難しい事は苦手なのよね。眠たくなってきちゃうのよ。

「マリナ、あとでおみくじも引こうぜ。ここは縁結びの神様がいるって言われてるんだ。ケチケチしてたら叶う物も叶わない。よくお願いするんだよ。」

薫はそう言って私に白い封筒を差し出した。神様に手紙?と思って中を見てびっくりよ!
諭吉さんがゾロゾロと…5人もいるのよっっ!ご、ごまんえんっ?!

「お賽銭ってのはお布施みたいなもの。
これは慈悲の心で他人に財物などを施す行為なんだ。
つまり自分にとって必要なものを「見返りを求めず与える」ことが大切ってこと。5円程度ならお賽銭に使っても惜しくないなんてのは、自分にとって必要でないものを与えていると思われても仕方ない。
自分にとって痛い金額を「見返りを求めない心」で使うことに意味があるって子供の頃、兄貴に教えてもらったんだ。だからご縁の5に掛けて今日は5万にしたんだ。
分かったか?無知のマリナちゃん。」


悔しいけど私はいつもお賽銭は5円玉よ。それで今はこんな状況なのかしら?
でも薫に出してもらったお金でお賽銭を入れるのってどうなの?!
それこそ私は1つも痛くないわよっ。
つまりこの先には一生縁がないって事?

私が青くなっていると、薫は肩に腕を回しておみくじ売り場の方へと人混みに埋れていく私を庇いながら何とかたどり着く事ができた。
さすがに有名な神社なので、たくさんの人が詣でている。
おみくじを手に取り、そっと包みを開いてみた…末吉。微妙なのが出てしまった。

何事も消極的になりがち。
紛失物…探し続けます。
健康…気にかけましょう。
待ち人…しばらく来ません。

がっくりとうなだれる私のおみくじを薫は覗き込むと、たくさんおみくじが結ばれた木の下まで連れていった。

「良くないおみくじは木の生命力にあやかり、願いを込めて結びつけるんだ。
ほら、やってごらん。」

そんな意味があって結びつけるなんて初めて知ったわ。
低い枝を見つけてしっかりとおみくじを結びつけてパンパンと私は手を合わせた。どうか良い事がありますように…。



「マリナっ!手なんか叩くなっ!」





つづく