「シャルル様、玄関先にてアルフェージ様とおっしゃる方が響谷様を訪ねて来られております。いかがしましょうか?」
私達の居室にメイドさんが来てそう言ったの!アルフェージ様って、ガイじゃないっ?!
ガイ・テルミナ・ソールズベリー…えーと、なんだっけ?
とにかくガイが来ているのね!
私がメイドさんに食いつきそうな勢いで近寄ると彼女は後退りしながらシャルルの返事を待っていた。
どうするも何もないわよっ!
ここに案内して、いますぐに。もしくは私が玄関まで会いに行くわよ!
そんな私の様子を見ていたシャルルが冷たく言ったのよ。
「なぜ薫に会いにここへ来たんだ?感動の再会は日本でやるんだなと言っておけ。」
なんて事を言うのよ!
ちょっとシャルル、それは冷た過ぎるんじゃない?奇しくも一緒に手術をやった仲じゃない!それなのにその冷たい態度はどういう事よ。
私はシャルルに文句を言ってやろうと思って口を開きかけると、
「君はアイツにずいぶんと会いたそうにしているね。余計に気に入らない。」
そう言うとバスルームへと消えてしまったの。メイドさんも困ったようだったけどシャルルがあんな対応だからお屋敷に通す事も出来ないわよね。
ここは私がガイに会って何とかするしかないわね!何もアルディ家で会わなくてもカフェでお茶でもすればいいのよね。
ガイには門で待つように伝言を頼んでおいて私は薫を呼びにゲストルームへと向かった。
「か、か、かおるーっっ!
ガイが来てるの!ガイがパリに来たのよ!すぐにガイに会いに行くわよ!早くっ!」
最初は驚いていた薫だけど、シャルルがなぜか嫌がってるって話したら何かを察したらしく、すぐに私を連れて玄関へと向かった。
玄関先には懐かしいガイがそこに居た。
金の巻き髪にサファイアブルーの澄んだ瞳、高貴なムードに満ちた佇まい。初めて会った頃のガニ股からは想像もつかないほど立派な紳士がそこにはいた。
「マリナっ!?どうしてここに?」
「おい、あたしに会いに来たんだろ?
マリナ、マリナうるさいぞ。」
そう言うと薫はガイと抱き合い久々の再会を喜んだ。
イギリスの空港で偶然出会った私達3人はガイが本当にアルフェージ家の子息である事を証明する為に数日間を共にし、深い絆で結ばれたの。
「ガイ、あの時はずいぶんと世話になったみたいだな。」
小菅での事を薫は言っているのね。シャルルと一緒にコンテナに入って手術の手伝いをしたのはガイだったものね。
そう言った薫が私にはとても切なそうに見えた。きっとあの頃の事を思い出したに違いない。兄上の死を目の当たりにし、自らも発作を起こして死の淵を彷徨った事が胸に蘇ってきているのかもしれない。
それは薫にとっては辛い過去だもの。
「シャルル様からゲストルームへお連れするようにと承っております。どうぞこちらへ。」
シャルルったら始めからこうしてくれればいいのにとモゴモゴ言いながら私達はメイドさんの案内に付いて行った。
「マリナは薫と一緒にパリに来たの?」
部屋に入るとガイは私の肩を両手で掴み、覗き込むようにして私に尋ねた。その美しいサファイアブルーの瞳に見つめられて私は言葉が出せなかった。私はガイの瞳の中に切なげな影を見つけてしまったの。ずっと前に私を好きだと苦しげに言った時と同じ目をしていた。その様子を見ていた薫が仕方がないと言わんばかりにガイの腕を掴んで私から離した。
「ガイ、昔と変わってないな。その押し付けるような愛をマリナに向けるなよ。
今じゃマリナはこの家の当主シャルル・ドゥ・アルディの婚約者だ。おまえさんの入れる余地はないぜ。」
その瞬間、ガイの瞳に怒りにも似た熱いものが溢れ出した。
「あの時マリナは和矢が好きだと言ってたじゃないか!?オレは君が和矢を好きなら諦めようと思えたんだ。そして君の愛する和矢の情報を少しでも君に届けたくてモザンビークへ向かったんだ。母の遺言を伝えに尋ねてきてくれた和矢となら…。それなのになぜシャルルの婚約者だなんて…っ?!」
私を責めるように声を荒げるガイの後ろからシャルルが声を掛ける。
「L’amour de la verite!真実の愛だ。ガイ、君は薫に用があるんだろう?マリナに聞きたい事があるならオレを通せ。ここはオレの屋敷だ。」
ガイは唇を噛み締めると感情を押し込めてシャルルへと向き直った。
「分かった。ではマリナがなぜ貴方の婚約者なのかオレに分かるように説明して欲しい…」
「薫、マリナを連れて外してくれないか。オレはこいつに話をしなければいけないようだ。」
私はガイとシャルルの事が不安で部屋から出るのが怖かった。2人を振り返りながら薫に引っ張られるようにして部屋を後にした。扉は閉まり、私は薫の手を振り払って扉に耳を付けたい気分だった。
「シャルルもおまえさんが相手だと大変だな。一体何人に説明して歩くんだ?」
皮肉げに笑うと私の頭にポンと手を乗せてくしゃくしゃとかき混ぜた。
「心配するなよ。ガイだってバカじゃないさ。シャルルの話を聞けば絶対に納得するさ。」
和矢を好きだと言った私の為にモザンビークまで行ってくれたガイに今はシャルルが好きなのとは言い出せなかった。
そんな私を気遣ってシャルルが私を外へと出してくれた。
私はガイの気持ちにもシャルルの優しさにも甘えている自分が許せないでいた。
こうして2人だけになった部屋の前で待つ私と薫にメイドさんか慌てた様子で駆け寄ってきた。
「響谷様、日本から緊急連絡です!」
つづく
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【L’amour de la verite】
ラムール ドゥ ラ ヴェリテ
真実の愛…のような意味合いです。
シャルルにフランス語を言わせたかっただけです\(//∇//)\
みなさま、こんばんは!
新しいお話は愛の祈りの後の話になります。続編ですね。
マリナシリーズを再収集し始めた頃に、【愛する君のために】を読んでいつかガイで書きたいと思っていたんですが、こんな形での出演となりました。ガイはアルフェージ家の子息と認められた直後にモザンビークへと旅立ち、いつの間にやらシャルルに呼び戻されパラドクスで手術後に口笛を吹いたんですよね。
そんな彼も絡めて創作していこうと思ってます。ガイはとても情熱的だったんですよね\(//∇//)\
最後まで読んで下さりありがとうございます最終話までお付き合い頂ければと思います