私を抱き上げて部屋まで運ぶとベットに寝かせてくれた。
これ以上部屋が遠くなくて良かった。
もう心臓がドキドキしておかしくなるかと思っていた。男の人に抱っこされる事ってあまりないものね。
「ねぇマリナ、前にも話した通り無理に思い出そうとするのはよくない。脳が処理しきれなくなって一種のパニック状態になるんだ。それで頭痛が起きるんだ。焦らずに思い出せる方法を一緒に考えよう。」
私は焦っていたのかもしれない。
無理は良くないって言われたけど、でもジルに聞こうと思っていた事をせめてそれだけでも聞いておきたかった。
「ねぇ、シャルル。ひとつだけ教えて。私ミシェルの事を忘れてしまっているの?さっき少しだけどイメージみたいに映像が見えて…でもよく分からなくて。」
シャルルは目を見開き信じられないといった表情を浮かべて一言だけ切なげに呟いた。
「マリナ…。君は本当に忘れてしまったんだね。何もかも…。やはり君の中でのオレの存在価値はそれまでだったと言うことか。これも運命かもしれないな。」
オレの存在価値?
どういう事?
私は言われた意味が分からなくて聞き返そうとしたけど、声を掛けられなかった。
儚く散る花びらの如く表情はなくなり、思い詰めた様子でそれだけ言うと私の容体の確認を再び始める。
その表情からはもう何も読み取る事は出来ない。厳しい無表情のまま、自分の前の空中を凝視し、強く唇をかむばかりだった。屈辱と絶望とが満ちた瞳だけがそこにあった。
……!!
私、前にこの表情見たことがあるっ!!
どこでっ?! シャルルは自分の殻に閉じこもってしまったようだった。
でも私はこのシャルルを知っている!!
どこかで見たような…。
「シャルル…前に私、あんたとこんな事があったような…。
その時、雨が降ってて…。」
「マリナっ?まさか…?」
激しく頭の中の血が沸き立ち、濁流のように暴れ、私は我慢出来ずに頭を抑える。シャルルが慌てて医療バックから注射器を取り出すと薬液を注入している。
私の腕をガーゼで消毒すると注射針を差し込んだ。
「マリナ、落ち着いて。今、鎮静剤を打ったからすぐに痛みは収まるよ。気持ちを鎮めて。」
シャルルは優しく私に語りかける。
頭の中で見たさっきのはシャルルだった。まるで泣いてるようだったわ。
私はシャルルと過ごしていたの…?
それとも…。
つづく