きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

愛の祈りシャルル編18

「私はミシェルの事を忘れてしまっているの?」

なんということだ…。


彼女は信じられない事を口にした。
オレは立ち尽くした。
忘れられる苦しみ。ましてやオレとの過去は彼女の中でミシェルとの過去にすり替わっていたのだ…。




時折フラッシュバックが起きているようだった。記憶障害において、このような現象が起きる事例はいくつもある。これがきっかけになり記憶が回復すれば良いのだが…。

マリナの記憶は複雑に絡み合っているのだろう。オレとミシェルとの記憶が曖昧となり、あの頃のオレとの事がミシェルとの日々だと記憶違いをしていた。

いや、先ほどのジルの話から察するにミシェルによって記憶の誘導もあったかもしれない。
ミシェルもマリナに惹かれたとでも言うのか…。同じ遺伝子を持つ、もう1人の人間もまた彼女に魅了されたと言うのか…。
中庭でミシェルがマリナを抱きしめていたと聞いた時、怒りよりも悲しみが心に流れ込んで来た。

マリナは抵抗しなかったのだろうか…。
ミシェルには心を許してるのか…。
くそっ!マリナの事になると冷静でいられなくなる。

ここでマリナに真実を打ち明けたとしても彼女が見つけた記憶でない限り、納得しないだろう。

「君はオレに会いにパリへ来たんだ。」

何度、口に出して言いそうになったことか…。


いや、むしろオレに会いに来たわけじゃなかったとしたら…。
期待をして裏切られるのはもうオレ自身が耐えられないだろう。
華麗の館でマリナに告白された時、そして小菅でマリナに別れを告げた時。
喜びが大きいほど、失った時のダメージは計り知れない。
もうオレにはそれに耐えられるだけの精神力はなかった。

オレはマリナの気持ちを確かめる事を躊躇っていた。
オレは慎重になり過ぎたのか…。事故当時からマリナとは友人であるがそれ以上は医者と患者の関係のままを保って距離をとっていた。
記憶の刷り込みはしたくなかった、出来ないと言ったほうが近いかもしれない。
長い時間を共有し恋をしたとしてもいつか記憶が戻り、オレから去っていくマリナを想像すると怖かった。和矢と別れたとは聞いていた。だがそれは前にもあったことだ。
マリナ自身が和矢に別れの手紙を書いていた事があった。が、結局は和矢のもとへと行ってしまった。
和矢の元へ帰るマリナを二度までも手放す事など出来ない。
オレ自身が狂いそうだ。


オレが考えに集中していると、突然マリナが捲し立てるように話し出した。

「シャルル…前に私、あんたとこんな事があったような…。
その時、雨が降ってて…。」

マリナ…?
何か思い出したのかっ?
オレは歓喜に震えた。一筋の光が差し込みオレに注がれている。
このまま全てを思い出してくれ…。

途端にマリナは頭を抑えて苦しみ始めた。緊張が走り、オレは用意しておいた鎮静剤を取り出し、マリナに投与した。
毎回、頭痛を伴うのであれば記憶を辿る行為は控えた方がいい。

実際、事故による外的損傷が原因の逆行性健忘のマリナは過去の事を思い出さなかったとしても問題はあまりない。新しい事が覚えられない訳ではないからだ。
記憶に関わる海馬は動脈血量の減少による局所の貧血に対して非常に脆弱であるため、記憶を辿る行為が何らかの影響を与えてるのかもしれない。
催眠療法などもあるが自然に思い出すケースも多い。それを待つ方が本人にとって苦痛が少ないかもしれない。




だがそれはオレを忘れたままになる可能性があるということでもあった…。







つづく