きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

愛の祈り(パラドクス後マリナ編)12

目の前にとっても綺麗な人がいて私を見つめていた。
ぼんやりとしか見えない…。
この人はお医者さんみたいだわ。痛いところがないか聞かれたけど、体の感覚はあまりない。

名前を聞かれたけれど分からなかった…。

私の名前…暗闇に落ちて行きそうな不安と恐怖で涙が溢れてきた。
なに、この感覚…。
靄がかかってるような暗い雲の中をいつまでも彷徨っている感じ。
瞼が重くてとても開けていられずに眠りへと落ちて行った。




あれからどれくらい経ったのだろう。
目を覚ますと白衣を着た人が2人いて少しすると、この前の綺麗な人も現れた。

みんな外国の人だわ。なぜか日本語で話しているのよね。ここは日本なの?

綺麗な人は私の手をとると脈を診ながらいろいろ聞いてきて、私にも説明をしてくれた。
ここが日本でなくてパリだということ。事故にあったこと。
私の名前とこの人の名前。どの話を聞いてもピンと来なかった。
マリナ…私の名前。しっくりこないわ。頭の中がぼやっとしたまま。

事故の時に腕や顔、足にもケガはしたけど後遺症の心配はないみたいだった。だけど何も思い出せないままだったら、どこへ帰ればいいのか…。
ポッカリと暗闇が私の目の前に再び現れて飲み込まれてしまいそうだった。
自分の事が分からない恐怖に私は襲われていた。


数日間は検査を受けたり、点滴をしたりして過ごしていた。
私の生活リズムも整ってきたの。事故の後に何日も眠っていたなんて信じられなかったんだけどね。今では朝にはちゃんと起きて検温してからご飯を頂いて午前中にはシャルルや他の医師の診察を受けていた。
特に異常がなければお昼ご飯を食べた後に庭を散歩する事も出来るまでに回復していたの。
骨折している左腕はギブスのまま固定されていたけど痛みもそれほどないし、
擦り傷なんかも瘡蓋になってかゆいぐらいだった。

その日も午後の散歩に出かけようとした時にドアをノックしてシャルルが入ってきたの。
普段は午前の診察と夜になってから話をしにくるんだけど、こんな時間は始めてだわ。

「この時間にシャルルが顔を出すなんて珍しいわね。」

と話しかけるとシャルルが何か言いたげにフッと笑いながら目を伏せた。

「マリナ、オレはミシェル。シャルルと双子の兄弟で、現在アルディ家当主だ。
当主の仕事が忙しくて見舞いに来れなかったが調子はどう?
オレの事も覚えてない?」

ん?当主…懐かしい響きのような。このミシェルも私の事を知っているのね。
それにしてもシャルルにそっくりだわ。

なぜ私はこんなにフランスに知り合いがいるのかしら?
私って何をしていたんだろう。

「自分の事が分からないって不安だろう。行きたい所へいき、いろんな物を見て感じて、そうしているうちに何かがきっかけになって思い出せるようになるはずだよ。
来週には長い休みも取れるからいろいろ付き合ってあげるよ。
一人で不安になって泣いたりしちゃだめだぜ。」

ミシェルの言葉が心にしみる。私の不安な気持ちを思って心配してくれている。
一人で泣くなってここへ来てから初めて掛けられた言葉だった。
シャルルは治るまで安心してここにいてって言っていたけど、それは身を寄せる場所の提供のような意味だろうし。
ミシェルともっと話をしていたいと思った。それにしても見分けがつかないほどよく似ている2人だった。
本当に声でしか判別できないわ。









つづく