私はパリに着いた途端バックを盗まれて、それを追いかけて事故に遭った。
何もかも思い出したわ。
和矢と別れたこと、
シャルルの事が忘れられなかったこと、
そしてパリに来た理由。
私の気持ちを確かめるために、
今の私の気持ちをシャルルに伝えるために。
だけど私は記憶を失くしていた。
ずっと長く…。
そしてミシェルと同じ時間を共に過ごしていた。
時折感じていた懐かしさはミシェルじゃなくてシャルルに対してのものだったのね。それなのにシャルルとの事をミシェルとの思い出だと私は勘違いしていた。
だけど今でもミシェルは嫌いじゃなかった。
かつてシャルルを追い落とし、シャルルが生まれ育ったアルディ家を去る事になった原因がミシェルだったとしても。
数週間ミシェルを近くで感じて話をして同じ景色を見てきた今の私は過去の彼の行動も理由があっての事だと思えてしまう。
生まれた瞬間から影の住人となって常に
シャルルに取って代わりたいと思っていたミシェルを責める気持ちにはなれなかった。
そして今まさに同じ事が起きようとしている。あんなに優しかったミシェルの面影はなく、そこにはシャルルを再び追い詰めて陥れようとしているただの策謀家の顔でしかなかった。
私は自分の心を見つめ直していた。
自分はどうしたいのか…。
そして見つけた答えは…。
「シャルルがマルグリット島へ行くなら今度こそ私も一緒に行くわ。
シャルルを1人で行かせたりしない。もう離れるなんてイヤなの。
シャルルが私を要らないと言っても。
私はシャルルが好きだから…それを伝えるためにパリに来たんだもの。」
みんなが一斉に私に向き直り驚いていた。シャルルは私の腕を強く引き寄せて胸の中に掻き抱いた。
「思い出したのかっ?マリナ…」
シャルルの問いかけにコクンと頷いた。
折れそうな程に抱きしめられ今までの自分の態度を振り返ると涙が止まらなかった。どれほどシャルルを傷つけてしまったのだろうって思うと胸が苦しくなる。
「シャルル、思い出すのが遅くなってごめんね。
私はあんたが好きなの。それを言うためにパリまで会いに来たわ。
たとえあんたに恋人がいたとしても、もう私を好きじゃなくても…
私はシャルルが好きだってどうしても伝えたかったの。」
私を抱きしめる腕に更に力を込めて私との隙間がなくなるほどきつく抱きしめた。
「マリナ、マリナ…っ!
Je t'aime pour toujours. 」
シャルルは何度も私の名前を呼ぶ。
抱きしめていた腕を緩めて私の目を見つめる青に近い灰色の瞳を煌めかせると
「オレがマリナを忘れて誰かを好きになるなんてありえないよ。言ったろ?
愛してる。永遠に、君だけを愛してる。
あの言葉は今でも有効だ。永遠にだよ。
このシャルル・ドゥ・アルディの言った言葉に間違いなどあり得ない。」
そう言って頬を傾けると唇を重ねた。
私の頬を再び涙が伝う。
唇を放してもシャルルは私を見つめたままだった。そこに何かを確かめるみたいに。そんな私たちの間に割って入るようにミシェルが言葉を投げかけて来た。
「良かったなマリナ。もう車の前に飛び出したりしちゃダメだぜ。」
私にウインクするとすっかり優しいミシェルの顔に戻っていた。
私はなんだか違和感を覚えながらもさっきまでの事があって返事は出来なかった。
それからミシェルは革張りの当主の椅子から立ち上がるとニヤっと笑みを浮かべてシャルルに向きなおると
「シャルル今までのことは全部、茶番だ。親族会議など招集してない。少しばかり手荒だとは思ったが、ショック療法を試してみたまでだ。
ジルは最初ずいぶん嫌がっていたが2人のためならといって協力してくれた。」
「そんな事は疾うに分かっていた。
オレを騙しきれると思ったのか?
第一、家訓に当主不信任案に関する条項は存在しない。犯罪、心神喪失、死亡及びそれに準ずるもの以外で喪失者になる事はあり得ないからな。」
シャルルは全部分かっていたの?!
それでも騙されたフリをしていたってわけ?私が驚いてシャルルを見上げているとミシェルがシャルルに向かって誇らし気に言った。
「マリナの前で当主争いを再現すれば当時の事を思い出すと踏んだんだが、やはりあの頃の思い出はマリナにとって強烈だったんだろうな。
シャルル、謝礼はロワールの館のカギにしよう。兄思いの弟への褒美としてだ。ママンの館はオレが貰うよ。」
そこで一旦言葉を切ると私に視線を向けて微笑むとシャルルに向かって挑発ともとれる発言をしたの。
「昨夜のマリナはとても可愛らしかったよ。でもキス以外何もしていないよ。昨夜オレはジルと朝までずっと今日の事について打ち合わせだったしね。マリナはオレの部屋で朝まで1人だった。ホッとしただろ…?シャルル。」
まいったなという顔を見せるシャルルと満足げなミシェル。
2人は笑いあっていた。こんな2人を見る日が来るなんて思ってもいなかったわ。
そんな事を思いながら私はこの双子がこの先も解り合い、助け合う関係でいられることを祈らずにはいられなかった。
シャルルもミシェルも今度こそ光を浴びられるように…私はそっと祈る。
そんな私の思いを知らずかシャルルはそのあとミシェルの発言についてしつこく私を追求することになった…。
つづく
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ーJe t'aime pour toujours.ー
ー永遠に愛しているー