きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

愛はそこにある…je crois 5


「これはシャルルのためなのです。」


時おり視線を落としていたジルは一つ小さく息をつき、決心したように真っ直ぐに私を見つめるときっぱりと言った。



「マリナさん、シャルルは絶対に口に出して何も言わないと思いますが三ヶ月ほど前から交渉を進めていた取引が実は明後日に迫っているのです。
先方がやっと交渉に応じたのです。

今シャルルが日本へ向かうと言うことは交渉の場に立たないと同じことです。
まもなく19時になりますが、仮に今すぐにパリを出発しても日本に到着するのは明日の15時すぎです。

そこから病院へ向かい治療を施し、明後日の取引の席に着くとなれば…。
治療に掛けられる時間は4時間ほどです。
この間に容体を把握し、場合によって手術となると時間的に厳しいと思います。

このチャンスを逃せばニ度と交渉の機会は訪れないでしょう。シャルルは誰よりもそれを分かっているはずです。
たとえシャルルと言えども許されない事なのです。」

シャルルは私に何も言わなかった。
そんなに大切な用事がある事も、それをしなければどれほど自分の立場が悪くなるのかも…何も。
きっと私が悲しむからだ。

兄上を助けて欲しいって私が言うのが分かっていて自分の事は諦めたんだ。


「どうかマリナさんの口から取引を優先するようにシャルルを説得して下さい。
そうでなければシャルルは、当主の座から追われる事になるかもしれないのです。」


私はその取引が気になってジルに聞いてみた。

「その取引ってそんなに大切なの?
シャルルが行かないとダメなの?」

「取引と言うのはアルディ家の家宝。
宝飾品の一つなのです。
ミシェルが当主争いの際に流出させたものです。」


「それって何とかの聖剣じゃないの?」


正確な名前は覚えていないけど。
でもずいぶん前に取り戻したって聞いたわよ。シャルルがパリに戻ってすぐだったって言ってた。


「グノームの聖剣ではありません。それはすでにアルディ家に戻りました。
聖剣とは別にもう一つ流出させているのです。クレアシオン=レガリアといって
装飾が施された杖です。

初代当主アンリ・ドゥ・アルディによって作られて以来、歴代の当主はこのクレアシオン=レガリアを当主就任の際に受け継がれてきました。
正当な当主である証とされてます。」


どうしてミシェルはクレアシオン=レガリアを流出させたのかしら。当主になる時に受け継がなきゃいけないなら自分だって困るはずよ。

「そんなに大切な物をミシェルはどうして手放したんだろう」


「ミシェルはその体に流れるアルディの血を憎んでいたのではないでしょうか?
自らの存在を隠し、無いものとされた…

ミシェルにとってアルディ家の籍に入れてもらえなかった事は、歴代のアルディの存在と自分とを切り離す行為だと考えたのではないでしょうか。

ミシェルにはそう思えたのかもしれませんね。そしてその血を継承し続ける当主の証、クレアシオン=レガリア。
それを消してしまいたいと願ったのかもしれません。
実際に、彼が取り急ぎ行った当主就任の際にこのクレアシオン=レガリアは使用しませんでした。
あってもなくてもミシェルには関係がなかったと言うことでしょう。
単に資金集めだったかもしれませんが。

あの時はアルディのメインコンピューターはシャルルによって封鎖されていました。ミシェルも背に腹は変えられないと言ったところでしょうか。

一度、世に出てしまった宝飾品を取り戻す事はとても困難な事です。
ましてクレアシオン=レガリアはアルディ家初代当主の頃より家宝としてきた物の1つなのです。この機会を逃す事はあり得ないのです。」








つづく