きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

愛の祈り(パラドクス後マリナ編)19

ジルの執務室で頭痛を起こし、部屋に帰ってからも再び頭痛に襲われた。

シャルルが説明してくれたけど、難しくてよく解らなかった。
要は思い出そうとすると脳がパニックになるので考えるなって事だった。
簡単に言うけど考えないって結構難しいのよ!だってふと散歩をしたり庭を眺めたり、寝る前のほんの一瞬だって何かしら考えるでしょ、普通。
それをするなって方が無謀だわ。

でもどんなにダメって分かっていても、ふと考える瞬間があって頭痛を起こしてはシャルルに心配をかけていた。
それでも思い出す事はあれっきり皆無でこのまま一生思い出さないんじゃないか。私は過去の記憶を諦める事を密かに覚悟し始めていた。

事故から2ヶ月が経ち、手術をして埋めてあったボルトは取り出されギブスも役目を終えて私はすっかり元通りの元気な体になっていた。記憶って事を除けばだけどね。
私を救う為に遠くで暮らしていたミシェルをアルディ家に呼び戻し、当主代理として働いてもらっていたとシャルルから後になって教えてもらったの。
私の記憶が今だに回復しない為に当主代理としてまだミシェルに任せたままシャルルは私の治療をしたり、様子をみたり、治療法を研究して過ごしていた。

ミシェルは当主の仕事が終わるとよく私の所へ顔を出し様子を見に来る事が増えた。部屋に来てワインを飲んだり、キューバにいた頃の話をしてくれたり、屋敷から抜け出してパリの街を2人で歩いてみたり…。
ミシェルは型にハマらずに自由に生きてきた人なんだろうなって思う。
発想も自由で当主の仕事で出かける時に私も同行させてくれたり。パリに来てから初めて目にする物や場所、華やかな場所や美しい景色、美味しいデザート、素敵なカフェ…次から次へと連れ出してくれて私はミシェルが連れ出してくれる日が待ち遠しくて仕方なかった。
さすがにアルディ家当主としての仕事は膨大な量で朝も早くから動きだして夜は遅くまで働く事の方が多そうだった。
それでも時間を作り私を楽しませてくれているのが嬉しかった。

私はそんなミシェルに恋をし始めていた。今日はどんな話が出来るだろう…今日は顔を出すのだろうか…って考えるようになっていた。
その事を意識した時に私はミシェルが好きなんだと自覚したの。

コンコン…。
いつものようにミシェルが私の部屋をノックする。

「マリナ、お待たせ。気分はどう?
体調は悪くない?」

いつもと変わらない問いかけ。もうすっかり体調は良いのにいつまでも心配みたい。

「すっかり元気よ。ワインを用意してあるけど飲む?」

ミシェルは後ろに隠していた腕を前に出して持っていたバスケットを私に見せた。

「お腹をすかせてると思ってフルーツとブルスケッタ、それにチーズを持ってきたよ。」と言って私に差し出した。

「コックが1人でそんなに食べるのですか?って驚いていたよ。でもマリナだからって言ったら納得していたぞ。普段からどれだけ食べているんだい?」

悪戯っ子みたいに笑う仕草は、とてもアルディ家の当主代理とは思えないほど無邪気だった。

テーブルをはさんでソファに向かいあって座る。私たちはたわいもない話をして過ごしていた。
日付も変わろうとする時間になり、ミシェルは「また来るよ。」と言って立ち上がった。この瞬間はとても寂しかった。

私はミシェルを見上げる格好で目線が合い、恥ずかしさからすぐに目を逸らしちゃった。変に思われたくなくてすぐに立ち上がりミシェルを扉の方まで見送ろうと思って歩こうとしたらワインのせいで酔ったのか、バランスを崩して転びそうになったの!
焦ったミシェルが咄嗟に抱きとめてくれて私は逞しい胸にすっぽり収まってしまい全身でミシェルを感じてドキドキしちゃう。

「抱きとめてくれて、あ、ありがとう…。」

うわっ!間違えたっ!!
助けてくれてありがとうだった…。
益々ドキドキしてきちゃう。

「大丈夫?少し飲ませ過ぎたかな。」

そう言って私を見つめて顔を傾けるとミシェルの唇がだんだんと近づいてきて私は目をギュッと瞑った。まもなく額にキスが落とされる。

「唇の方が良かった?」

クスッと天使の笑顔で笑って見せたミシェルが色っぽすぎて頭がクラクラしそうだわ。見惚れている私の頭に手を置き、クシャっと髪をかき混ぜると

「色々と我慢出来なくなるから、オレは部屋へ戻るよ。おやすみ、マリナ。」

ミシェルは背中を向けたまま片手だけ上げて部屋を出ていった。

まだドキドキしている…。








つづく