きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

愛の祈り(パラドクス後マリナ編)23

私はシャルルの後を追って当主執務室へと向かった。
重々しい扉を開け放つとミシェルは本皮の大きな椅子に座り、ジルは執務机を挟んで毅然と立ち、2人は向かい合う格好で私たちの入室を見届けていた。

ミシェルは私たちを視界に入れると机の上に肘を付き、組んだ両手の上に顎を乗せて一つ大きく息を吸い込むと艶やかなバリトンで話し出した。

その突然言い渡された通告に私もシャルルも驚倒し、言葉が出なかった。

「シャルル、当主不信任案が可決した。アルディ家家訓により君をアルディ家当主から降りてもらうことがさきほど正式に決定した。
代わってオレが第三十二代当主に就く事になった。
詳細を説明してやってくれ、ジル。」

ジルは頷くとミシェルの横に移動してすぐ横に立ち、見事な長い金髪をサラリと揺らしてこちらに向き直って説明を始めた。

それは私が事故に遭ってからシャルルが治療と称して当主の職務を放棄していることに不満を持った数名が声を上げたことから始まった。
そこに元々、代理として職務に当たっていたミシェルが親族会議を緊急招集した。本来であればミシェルに委任していた当主の全権を残り数日でシャルルに返還する事になっていた。だけど親族会議で全会一致によってシャルルを当主資格喪失者であると決定した、という内容だった。

シャルルは黙ってそれらを聞いていた。
ミシェルとジルとを鋭い視線で捉えると真実を見つけ出そうと2人を見据えていた。

そしてシャルルの絞り出すような声が静かな執務室の中で響き渡った。

「ミシェル、なんの真似だ!お前は一度当主の資格を喪失している。今回の親族会議での決議は当然、無効だ。」

ミシェルはニヤっと笑みを浮かべるとシャルルに言い放った。

「シャルル、君だって一度当主の資格を失ったが特例で復権しただろう。
今回のオレのケースも同じことだ。アルディ家はより強い当主を常に求める。
それぐらい知っているだろう。
一般人に時間を割いてるような当主は必要ないと言うことだ。
親族会議の決定事項の報告はこれで完了だ。
シャルル、ただちにマルグリット島へ行く準備をするんだな。」

シャルルは信じられないといった表情を浮かべて小さく首を振っていた。

「ミシェル、きさま、それほどまでに当主になりたかったのか!」

青に近い灰色の瞳には怒りと憎しみが燃え上がりシャルルは怒りに震えていた。
私は信じられなかった。いつも穏やかで私の事を心配してくれていたミシェルはもうそこにはいなかった。ただ、シャルルを裏切り、当主の座に執着しているだけの姿が存在していた。
それにジルまでどうしたのよっ!
あんたはシャルルの味方じゃなかったの?
ジルにまで裏切られて、シャルルの心の内を思うと悔しさと怒りとで涙が溢れて止めることが出来なかった。




「ミシェル、どうしてこんな事するのよ!シャルルを追い落として自分が当主になろうとするなんて…」


その瞬間、数々の場面が私の頭の中を駆け抜けていった。
忘れていたはずの記憶が一気に感情の渦となって私を飲み込み、私はただそれに身をゆだねていた。
溢れだす思いに思わず両手で口元を覆う。涙で前が見えなくなり、みんなはそんな私をただ見守っていた。
私の様子がおかしい事に気づいてシャルルが声を掛けてる。

「マリナ…?」


それはずっとモヤモヤとした中を旅していた私の心があるべき場所へと帰ってきた瞬間だった。
何もかも全部思い出した瞬間だった…。

私は…シャルルに会いに来たんだ。
シャルルが忘れられなくて心配で気になってどうしようもなくて…。

そしてパリまでやってきたんだ。










つづく