ぼんやりと目を開けるとジルが私に微笑みかける。
目が覚めてハッとした。
ガバっと起き上がるとジルに必死に聞いた。
「ねぇ、シャルルはっ?!」
ジルの表情が固くなり私から一瞬、目を反らせる。ベットの上に置いていた私の左手を両手で握りしめる。
神経質そうな指先はシャルルと瓜二つね。温かく私の手を包み込みながらゆっくりと話し始めた。
「マリナさん、落ち着いて聞いて下さいね。現在シャルルは集中治療室にいます。
右腹部を刺され上行結腸を損傷しましたが手術は無事に終わりました。
しかし、刺傷部分より小腸の一部が外部へ飛び出してしまい出血も多く、かなりの重傷でした。現在も意識不明の重体です。」
「ウソ、でしょ……」
ジルが何を言ってるのか理解出来なかった。シャルルが意識不明…?
「そんなはずないわ。
だってシャルルは天才なのよっ!
ねえ、ジルっ!シャルルは自分で何とか出来ないの?!
いつもオレに不可能な事はないって言ってたじゃないっ!!」
ジルは悲しみの中から凛とした光を宿して私の目を見てしっかりとした口調で語りかける。
「シャルルは世界一の名医です。
しかし、自身の執刀は出来ません。
シャルルと同等もしくは、同等以上の医師がいれば状況は変わると思いますが…おそらく無理でしょう。
となれば、シャルルを信じるしかありません。彼の生命力を…。この世で生き続けたいと思えば必ず戻って来るはずです。しかし…」
ジルは私が日本に帰ってからの事を教えてくれた。
シリルの経過をとても気にして昼間はシリルの所へ行き、寝る時間を削って夜、仕事をしていた事。
シリルが日本へ向かった後にジルも日本へ来ていた事。
シャルルは知っていたのね。
私とシリルが日本で再会した事も…。
そこまで話すとジルは私に向き直り
「シャルルはマリナさんを手放してからすっかり生きる事に興味を失いました。
その事がどう影響するのか…。
とても不安です。」
シャルルの幸せを願ってパリを離れたはずなのにどうしてこんなことになったの?
私は胸が熱くなり込み上げてくる感情を抑えられなくなっていた。
シャルルに会わせてっ!
「ジルお願いよっ!私をシャルルの所へ連れて行って!」
ジルはふと口元を緩めた…。
なんだろう…。
私にガウンを羽織らせるとジルはゆっくりと案内してくれた。
上階の1番奥に集中治療室と書かれた部屋があった。
ゴクリと唾を飲み込む。
意識不明のシャルルを見て平静でいられるか分からなかった…。
膝がガクガクしてきて上手く立っていられない。怯え…シャルルを失うかもしれない恐怖に立っていられない。
ドアをノックして入ると信じられない光景を目にした。
つづく