それにしてもシャルルはどうしてこの部屋で手術衣なんて着ているのよ?!
怪我は大丈夫なの?!
私は逞しい胸からガバッと抜け出すとシャルルを見上げる格好で捲し立てた。
「あんた、怪我はっ? まさか自分で手術して治しちゃったのっ?」
シャルルは私にソファに座るように促すと机の上の書類を手に取り、何やらサラサラと書き込みながらフッと不敵な笑みを浮かべて私を見た。
「マリナ、自分のオペに手術衣は着ない。さすがのオレでも今回はここの医師にオペして貰ったよ。傷口は小さかったが少々深くてね。しかも時間があまりなかったんだ。
オレは君を運び込んだ時にこの病院でオペを一件受ける代わりに施設を使えるように交渉したんだ。
心臓の外科手術で先ほど無事に終わらせたが、開始時刻が迫っていたからオレの方は急いだんだ。
それでさっきは、手術衣だったってわけさ」
私はシャルルの強靭さに驚くばかりだった。だって、刺されて手術されて、手術しちゃうなんて普通の人間じゃ、まずやらないわよ!
ここに来た時にこの病院とオペ一件で交渉していたのも知らなかった。
普通、知らない外国人が自分は医者だって言っても大学病院はオペなんか頼まないわよ!
それがシャルルの事を学会で見かけた事がある院長さんが、ぜひオペを見たいってなったんだって。
フランスでの医師免許を持ってるシャルルは日本では普通は医療行為は出来ないはずなんだけど、大学病院を通じて政府関係に要請して実現したらしい。
フランスの誇る天才シャルル・ドゥ・アルディが執刀するとなって病院側は私に特別室を快く用意してくれたみたい。
見たくたってそうそう見ることは叶わない世界的にも有名なシャルルのオペを目の前にして、その技術力、素早さ、華麗さに医師達は偶然の出来事に誰もが溜息を漏らし、褒め称え賞賛した。
説明をしながらシャルルは書類に書き込み終わると明日の退院までは部屋で安静にするようにと私を特別室へと連れて行ってくれた。
部屋に戻ると今回の仕掛け人、ジルとシリルが待っていた。
私たちが部屋に戻るとジルは真っ先に謝って来た。
「マリナさん、シャルルが重体だなんて言って驚かせてしまってすいませんでした。シリルとシャルルにどうしてもと、言われてしまって……」
ジルは申し訳なさそうに眉を下げると困った顔をした。
「この2人に頼まれて仕方なく協力させられたのね。ジルには選択肢がなかったんだものしょうがないわ。
でも迫真の演技にすっかり騙されたわ」
私は参ったという顔をしてみせた。
「しかし、マリナさんが無事で良かったです。シャルルは自分の事よりも貴女を大切に思っています」
うふふ…と微笑むとシャルルへと視線を飛ばした。
シャルルは辛辣さの中にも敬愛をこめた目でジルを見ると、
「それで、あの女の身元は?」
「はい。やはりフォルジュ家の手のものでした」
つづく