シャルルはシリルの想いを聞いて何を感じたんだろう…。
シリルは何を考えているの。
そんな事を考えながら私はいつの間にか眠っていた。
ここへ運び込まれてから2日が経ち、私の体調は安定し始めていた。平熱になり、倦怠感や悪寒から解放されていた。
通常、培養検査は1~3日ほど結果が出るまで掛かるそうなの。
でもシャルルの判断で入院後に行った点滴の抗生剤が私の体中に毒素を出していた菌を的確に排除したらしく、私は驚異的な回復を見せた。
「裂傷部の化膿によるもので細菌の特定はある程度出来る。処置までの時間で症状が重くなるケースがあるので結果を待たずに抗生剤を投与した。」
腕の怪我もシャルルの調合した薬のおかげで痛みも引き傷口の化膿も良くなってきた。
シャルルの完璧な治療と体調管理によって私は元気を取り戻したの。
日本に帰ってきてから食事もあまり摂っていなかったのも原因みたい。
自分で決めた事とはいえシャルルと離れて暮らす寂しさで食欲はなかった。
「体力が落ちると普段何でもない菌が悪さをするんだよ」って私にも分かるように説明してくれた。
「しかし君の回復力も素晴らしいが、オレがパリで見た時はここまで酷くなる程ではない傷だった。まったく何をしたらここまで悪化させられるんだ!」
シャルルの怒りが私に襲いかかる。
ベットで半身を起こしている私は俯く事しか出来ない。
「ごめんなさい。そのうち治ると思っていたの。シリルにも怒られたわ。心配させるなって。」
点滴を取り外しながらシャルルは振り返えり、切なげに私を見つめた。
グレーの瞳に悲しみが広がり影を落とす。その感情はすぐにねじ伏せられ、いつもの笑顔を作ると、寂しげに言った。
「君を大切に出来るのはもう君だけなんだからね。」
もう会うこともないと思っていたシャルルが目の前にいる。いつだって私の事を大切に思ってくれている。
胸がじーんと熱くなる。
愛しさが溢れて私を包み込む…。
手を伸ばせば届く距離なのに遠い存在。
シャルルを愛してる…。
そう言葉にすれば、この寂しさからは解放される…。
シャルルの側にいたいと願えば叶う…。
私の心は今もまだシャルルを求めている。
点滴を外され自由になった手がシャルルを捉えようと伸びていく。白衣の裾に指先が触れシャルルを感じた。
そこへシリルがノックをして入ってきた。私はとっさに伸ばしていた手を引っ込めた。
2人の様子から何かを感じとったシリルは私の横に来ると顔を覗きこんだ。
「大丈夫?」
私が頷くとシリルは信じられない事を言い始めた。
「この前も話したけど体調が良くなってきたし退院したらパリに一緒に行こう。
やっぱり君を一人には出来ない。
マリナさん、いいね?
シャルルも構わないでしょ?」
な、なんて事を言い出すのよっ!
シリルは挑発的な顔をするとシャルルに視線を向けながら私に向けて更に言葉を重ねた。
「シャルルの事は気になるとは思う。
でもオレはあの時、ホテルにマリナさんが来てくれた時に決めたんだ。
君をパリに連れて行くと…。」
ホテルって、あんたが迎えに来てディナーをしただけじゃないっ!
ちょっと告白されてドキドキしたけど…
そ、そんな言い方したらシャルルに誤解されるじゃないっ!
「シリル、何を言ってるのよ!
私はどこへも行かないわよ。」
シャルルが苛立っているのが分かる。
シリルはわざとシャルルの前で話しているんだわ。意図的に…。
シャルルを再び闇が覆い尽くす。シャルルとの生活を窮屈だと私から別れを告げた。
「愛してるから自由にしてあげる…」
パリでのシャルルの言葉が思い出される。
「オレから自由になってシリルを選ぶと言うのか…」
つづく