きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

聞かせてほしい5

シャルルは目を合わせない。
やっぱり私が狙われたんだわ。そして何人もの人を巻き込んでしまった…。


「あの人はどうなったの?」
私はもう一度聞いた。シャルルは青灰色の瞳を伏せると小さく言葉にした。

「一命は取り留めたが、すぐに元通りとはいかないと思う…」

私は愕然とした。
そんなっ……私達を助けてくれたあの人は、もう元通りにならないなんて…っっ!

「背後から銃弾を2発受けていて、その内の1発が臓器を損傷してしまった。
失血もひどく船から降りた時には、かなり…。」

私は床にわっと泣き伏した。
自分のせいで人の人生を変えてしまった事を受け止めきれなかった。





まだ夕方だというのに私はシャルルの私室で休むように言われた。自分だけがフカフカのベットで眠る気にはどうしてもなれなかった。
眠れるはずもなく、目を閉じるとあの惨劇が蘇ってきて私はじっとしていられなかった。

私がここに居るとシャルルにも迷惑を掛けてしまう。もういいって思った。
私たちは一緒に居ることが難しいのは最初から分かっていた事だった。

シャルルはシリルの術後の経過を見に行き、しばらくすると部屋へ戻ってきた。

「マリナ、痛みが強かったら飲み薬を用意するけどどうする?マリナ…?」

私はシャルルの質問には答えずに大きく息を吸い込むと自分の思いを話し出した。

「シャルル、こんなの私はもうイヤ。
命を狙われるなんて普通じゃないわ。
こんな生活がしたくてパリに来たわけじゃないの。私たち別れましょう…。」

私はこぼれそうな涙を唇をぐっと噛み締めて我慢した。
シャルルは目をカッと見開き、信じられないといった風に首を振っていた。

「ダメだ…。別れるなんて認めない。
君の事はオレが必ず守る。
今日は色々あったからそんな風に考えてしまうだけだよ。少し休むといい。」

私は立ち上がり興奮してるせいか大きな声になる。

「そうじゃないの!
守ってもらわなきゃいけない生活にはうんざりなの。私は自由に好きなとこへ行
きたい。
1人で出歩けない暮らしが窮屈なの。勝手ばかり言ってごめんね。
私、日本に帰るわ。」

私は背を向けると用意しておいた小さなバックを片手に持ち部屋を出ようとした。瞬間、後ろから右腕を掴まれた。

「ついさっき狙われたばかりなのを忘れたのか?
君を1人で行かせられるわけがないだろ。少しは考えてくれ。」

ギッと私を睨む青灰色の瞳は自分を大事にしない私への怒りなのが分かった。
私はいつも先の事まで考えなくて本当にばかね…。
あの人に体を張って助けてもらったのに…。

「最後のお願いよ、シャルル。
日本へ私を連れて行って…あんたと離れれば、きっと平和に生きて行かれるわ。
だから、日本へ私を帰して。」

何も感じずに、何も思わずに…ただ言葉だけを私はシャルルに向けて投げる。

泣いてしまいそうだから…

悟られないように…

単調に言葉だけをシャルルに向けた。



シャルルをこれ以上、私の事で振り回したくなかった。
今日だって胸が張り裂けそうなぐらい心配したと苦しそうだった。

シャルルに相応しい人と一緒になれば、今日みたいな事もきっとないわ。

愛しているから、私はあんたから離れる…。

日本からあんたの幸せを祈る。

「今夜、プライベートジェットで送らせるよ。マリナ、辛い思いをさせて悪かった…。オレといると君は泣いてばかりだな。」

私を引き寄せそっと抱きしめる。
シャルルの声は掠れ、その肩は震えていた。

「あの時と、同じだな…。君を愛しているから君を自由にしてあげる…」

私の顎を摘まむとそっと上向かせ唇を重ねた。震えているのが分かった。




10時間を超える移動もあっという間に感じていた。懐かしい日本…。
私はシャルルから、そしてパリから逃げるようにして日本に戻ってきた。

アパートへ着くと私がパリへ旅立った時のまま時が止まり、こうして再び私が戻る事を待っていたかのようだった。

鍵を差し込むとガチャっと音を立てて私の帰りを受け入れた。家賃はシャルルが前払いしてくれていた。
半年ぶりの部屋は埃っぽく、私は急いで窓を開けた。

懐かしい部屋を見渡すとシャルルと過ごしていた事が夢の出来事のように感じた。
シャルルを愛している…でもそれだけで一緒に居られるとはもう思えない。

また私が狙われるような事があって、その度にシャルルが心を傷めるのは見たくなかった。










つづく