きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

聞かせてほしい4

電話をかけていた男の人は私達に走り寄り無事を確認すると安堵の表情を浮かべた。横たわるシリルの怪我をしてる方の肩を厳しい表情で観察している。

「シリル様、失礼いたします。私はシャルル様専属のSPです。傷の具合を確認させてください。」

そう言うと私がハンカチで押さえていた箇所を見てポケットからガーゼの様な物を出してシリルの肩にかけて縛り止血をする。

「骨は無事のようですが出血が酷いので安静にしていて下さい。
マリナ様も出血があります。弾が当たったようです。ひどく痛みますか?」

私は首を振るとその人は頷いて、あと少しだけ我慢して下さいと言ってくれた。
でも助けてくれたもう一人の人は動かないままだった。

「あの人は大丈夫なの?」

私が不安いっぱいで尋ねると緊迫していた表情を緩めてゆっくりと話してくれた。

「彼もきっと大丈夫です。銃弾を受けて意識はありませんが、まもなく船着場へ到着します。すぐに病院へ搬送され手術を受けられるように手配済みです。」

このシャルル専属のSPがなんでこの船にいるのかしら?
まさかシャルルがここにいるの?!

「ねぇ、シャルルもいるの?あの人は誰なの?一体どうなってるのよ」

私は訳が分からず、全然止まらない男の人の周りに広がり赤く染まるデッキをただ眺めていた。

苦しげにシリルは顔だけを男の人の方へ向けると傷に響くのか体をビクッと強張らせた。

「彼はオレのSPだ…。くそっ…今日は誰も付けて来なかったんだが…」



「詳細については後ほど説明させて頂きます。何より今はお二人の安全の確保が先です。」

再び携帯で話しながら厳しい表情で辺りを見渡すと私たちと距離を取りながらあちこち見て歩いている。
ゆったりとしたセーヌ河の真ん中で私たちは標的となった。
逃げ場のない船上。



船着場に着くと何人ものスーツの人達が私とシリルを囲むようにしてアルディ家の車まで誘導していく。
シリルはケガをした肩に手を当て歩き出した。
車に乗り込むとアルディ家の専属医も待ち構えていて私達の傷の具合を確認している。


警備も物々しく本邸に着くなりシリルは手術室へと入って行った。
シャルルが執刀するのかしら?

私は少し離れた処置室に案内されて中へ入ると、そこは本物の病院の部屋の様だった。診察用のベットがあって、お医者さんの机、あとは薬品の棚もあった。
私は座って待つことにした。
騒ぎの中で興奮からか忘れていたけど、掠めた左腕がヒリヒリと熱を持って痛み出してきた。
傷口をそっと見てみると肩の辺りの袖部分が破けて血がかなり付いていた。
シリルの傷口を押さえていたから、そこらじゅう血だらけでシリルの物なのか、自分の物なのか分からないが、酷い有り様だった。


ノックがして現れたのはシャルルだった。ドアを荒々しく開けると私を視界に捉えて血だらけの姿をみて目を見開いた。

「マリナっ!大丈夫かっ?どこが痛む?」

片膝を付いて私を見上げる青灰色の瞳にギラっと鋭い光が走り黙ったままの私を睨むようにもう一度聞く。

「マリナ、どこなのか教えてくれないと分からないよ」

「左腕だけよ」

私は掠っただけなの。だから、シリルを見てほしかった。私は他の医者でも、放って置いても大したことないもの。

「ねぇ、シャルル。私は大丈夫だからシリルを見てあげてよ。肩から凄い出血してて、大丈夫か心配だわ。シャルルが執刀した方が確実なんじゃないかなって思うの。だから私はもう平気だから…」

そこまでしか言えなかった。
シャルルは切ない影を瞳に写して私を見据えると厳しい口調で言った。

「シリルはアルディ家の専属医師が診ているから心配ない。オレが出て行かなくても充分な治療をしてくれる。
ケガの大小じゃないんだよ。
君に何かあったら…オレがどれほど胸が張り裂ける思いでいたか、分からないかい?」

私はハッとした。
自分はまるでシャルルの気持ちを考えてなかった事にやっと気付かされた。
どんなに不安な思いをしていたのか、私の顔を見るまでどんなに心配してくれたのか。

「シャルルの気持ちも知らずに自分の考えばかり言ってごめんね。この通り私は大丈夫よ。でも…」

私はシャルルには重傷のシリルの方を診て欲しかったの。それに、あのデッキを血で覆う程の出血をしていた人の事も気になっていた。何かがこみ上げてきて私は聞かずにいられなかった。

「私達を庇って撃たれた人がいたの。あの人はどうなったのか教えて。
シャルルなら知っているでしょ?
私はこんなケガなのに、シャルルに診てもらってて、シリルもあの人も凄いケガしていたのに、あんたは診てあげないの?あの人、いっぱい血が出ていて…血だらけで…うぅ…っ。」

私の頬を涙が伝う。自分だけがシャルルに治療されてる事に居た堪れない気持ちになった。

そもそも今回の襲撃事件は誰が狙われたの!?
もしかして、私?
そう考え始めたらそこからもう離れられなくなってしまった。

「ねぇ私が狙われてたの?
私があの人達を巻き込んじゃったの?」


シャルルは私を一瞬見つめて視線を反らせた。









つづく