きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

聞かせてほしい3

取材当日、お昼過ぎに待ち合わせをしてシリルと私はアルディの車でシャンゼリゼ通りまで行った。
通りは栗の木の並木道になっていてコンコルド広場から凱旋門のあるシャルル・ド・ゴール広場まで続いている。
立ち並ぶカフェを何軒か回ってデザートの写真を撮り、思い切りデザートを堪能していた。街並みもいくつか撮り、お腹も満足な取材に私のご機嫌は絶好調だったの。

「ほとんど食の取材みたいだけど良かったの?しかしマリナさんて驚くほど食べるんだね。」

その眼差しは温かく普段はシャルルの冷凍光線を浴びてばかりの私は新鮮な気分だったわ。

「次はセーヌ河クルーズだよ。夜景を見せてあげたいとこだけどこの時期のパリの日没は20時近くなんだよ。残念だが遅くなると心配する人がいるからまた今度ね。それとも夜遊びしていく?」

薄紫の瞳がキラッとゆらめき、何とも素敵な笑顔を向けられてドキドキしてしまった。変な色気を出すのはやめてちょうだいっっ!
クスッと笑うと私の手を取り歩き出した。車で船着場まで行き豪華客船に乗り込んだ。
シリルと半日過ごして彼がとても人懐っこい事が分かってきた。シャルルとは正反対ね。
同じぐらい高い知能を持ちながら育つ環境で変わるものなのねと思った。
アルディ家を継承する事が生まれた時から決まっていたシャルルは厳しく育てられたんだろう。懐っこくするなんて事はあり得なかったはずよね。

シャルルの事を考えていたらシリルが私を覗きこんできた。
いきなりのアップはやめてちょうだい。
ドキドキするじゃないっ!

「オレと一緒なのに他のこと考えていたでしょ?ひょっとしてシャルルの事?」

言い当てられてドキッとしてしまう。
頭の中が透けて見えてるみたいじゃない。恥ずかしさに赤くなるとシリルは勘違いしたのか拗ねた口調で言った。

「オレを邪険にする子はマリナさんが初めてだよ。本当にシャルルが好きなんだね。なんか妬けるよ。」


そんなつもりじゃないのよって言おうとしたらシリルがいきなり私を抱き寄せるのと腕に痛みが走るのとが同時だった。









「パーンッ!パーンッ!」

「きゃーっ!」
左腕に痛みが走り、同時にシリルに抱き寄せられ押し倒された。私の頭を抱えて上に覆い被さるようにシリルが乱暴に自分の下に私を庇う。

「マリナさん、どこも痛くない?
ねぇ、返事してっ!」

何が起きているのか分からず私はただうつ伏せになりながら大丈夫と答えた。
そこに再び「パーンッ!」と銃声が鳴り響き、シリルの体がビクッとしたの。
え?!やだ、どうしよう…。

私がシリルから這い出そうとした時、2人の男が私とシリルに向かって走り寄ってきた。私達を抱き寄せる格好で銃口に背中を向け、盾になりながら引きずるようにして物陰まで避難させてくれた。

デッキには人影はなく、騒ぎの中、みんな船内へ逃げ込んだようだった。
私を庇ってくれてるシリルからそっと抜け出して目にした光景は悲惨なものだった。
助けてくれた男の人の内一人はデッキに仰向けで倒れていて、背中からは鮮血がデッキに広がり始めている。見る間に池のように血貯まり、男の人は生きているのかさえ分からなかった。

傍に横たわるシリルも肩から血が滲み出し、服の色が見る間にドンドン赤く染まり、痛みで額に汗が滲んでいた。

「マリナさん、ケガしてないっ?」

薄紫の瞳が激しく私に問いかける。
こんな時にまで私の心配をしてくれるのね。シリルが庇ってくれたから左腕を弾がかすめただけで済んだ。

「あんたが助けてくれたから平気よ。それよりあんたの方こそ凄い血が出てるわよ!大丈夫?
あんたもあの男の人も酷い怪我よ!早く病院へ行かないとっ!でもここは船の上だし、どうしよう…。」

「大丈夫だよ。たぶんもうシャルルが動いてるはずだよ。腕は痛む?もう少しだけ頑張って。」

シリルは気丈に振舞ってるけど、傷のせいで熱があがっているんだわ。
形のいい唇はうっすらと開けられていて苦しげに小さく呼吸を繰り返していた。


助けてくれたもう一人の人はどこかへ携帯をかけている。救急車を呼んでるのかしら?
私は床に横たわったままのシリルを膝枕して血が溢れ出てくる肩をハンカチで押さえながら、この惨状で何も出来ない自分がもどかしかった。







つづく