マリナさんが慌ただしく私の部屋へやって来て扉をノックしてきた。
自分がブレスレットを付けたままで別邸へ行ってしまった事に気付いたようだった。
この数時間前、シャルルはブレスレットからのGPSが本邸以外から発信されてる事に気付き、私に電話をしてきた。私は話していいものかと躊躇したけれど、シャルルに隠し事をした所で無駄な事は分かっていた。
きっと私がここで誤魔化した所であらゆる手段で調べ上げて来るはずだわ。
それなら私の口から説明した方が確実だと判断した。
私はシャルルが出発した日から別邸でメイドとして通いながら働いている事をまずは話した。電話の向こうの苛立ちが伝わってくる。
「君への質問は3つ。
ーマリナはなぜ働きたいのか?
ー君がなぜ止めなかったのか?
ーなぜオレに報告がなかったのか?
ジル、答えろっ!」
シャルルの怒りが私の胸に突き刺さる。
私は慎重に言葉を選んで今回の事を話した。話し終えると電話越しにシャルルがフッと笑ったようだった。
「ジル、君はさすがにアルディ家の参謀だな。オレも騙されるところだった。結構だ。計画通り進めてくれて構わない。ただしミシェルへの警戒レベルを上げるんだ。完了報告を待つ。」
私が「わかりました。」と言うと回線は切れた。
ミシェルとの接触の際はマリナさんにそっと見張りを付けておくことにした。
そして今、マリナさんが私の部屋へきている。まさかシャルルに今回の話が分かってしまったと知ればがっかりするだろうし、私の計画も無駄になってしまうので、シャルルは気付いてないと安心させることにした。
シャルルからブレスレットに関する質問もない事を知るとマリナさんはホッとしたようで私の部屋を後にする。
私はPCに向かいマリナさんが私の話を信じ切った事をWeb電話でシャルルに報告すると、「ご苦労」とだけ言ってシャルルとのPC回線は切られた。